フローベールの感情教育が扱う社会問題
1. 階級社会と社会的上昇の困難さ
19世紀のフランスは、七月革命や二月革命を経て社会構造が大きく変化した時代でしたが、依然として貴族制の名残が色濃く残り、階級による格差が根強く存在していました。フローベールはこのような社会構造の中で、主人公フレデリックが、地方の地主の息子という中産階級の出身ながらも上流階級への憧れを抱き、社交界での成功を夢見る姿を描写しています。
しかし、フレデリックは生まれながらの貴族や富豪ではないため、上流階級への道は閉ざされており、努力や才能だけでは乗り越えられない壁に直面します。彼は、社交界で出会う様々な人物との関係を通じて、上流階級の虚栄や退廃、そして彼らとの間にある埋めがたい溝を痛感させられます。
フローベールは、フレデリックの挫折を通して、当時のフランス社会における階級の固定化と、社会的上昇の困難さを浮き彫りにしています。彼はまた、上流階級の道徳的な退廃を鋭く批判し、真の幸福や充実感とは何かを問いかけています。
2. 女性の社会的立場と恋愛のあり方
当時のフランス社会では、女性の立場は男性に比べて極めて低いものでした。女性は教育や就労の機会を制限され、結婚を通じて経済的な安定を得ることが当然視されていました。フローベールは、このような社会状況を背景に、様々な女性像を登場させ、彼女たちの生き方や恋愛模様を通して、当時の女性の苦悩や葛藤を描き出しています。
主人公フレデリックが恋焦がれるアルヌ夫人も、当時の社会の犠牲者の一人と言えるでしょう。彼女は、愛のない結婚によって自由を奪われ、退屈な日々を送る上流階級の女性です。彼女はフレデリックとの恋愛に心の安らぎを求めますが、最終的には社会的な規範や自身の立場から逃れることができず、不幸な結末を迎えます。
また、フレデリックを取り巻く他の女性たちも、それぞれに社会的な制約や偏見に苦しめられる姿が描かれています。フローベールは、彼女たちの姿を通して、当時の社会における女性の抑圧された立場や、真の愛情と社会的なしがらみの間で揺れ動く女性の心理を浮き彫りにしています。
3. 政治と革命の熱狂と幻滅
19世紀のフランスは、七月革命や二月革命など、政治的な動乱が相次いだ時代でもありました。人々は、自由や平等、博愛といった理想を掲げ、旧体制の打破を目指して立ち上がりました。しかし、革命の熱狂は次第に冷め、現実の政治は、理想とはかけ離れた権力闘争や腐敗にまみれていきます。
フローベールは、このような時代背景を踏まえ、作中で二月革命前後のパリの様子を生々しく描写しています。彼は、革命の熱狂に身を投じる人々の姿と、革命後の混乱と幻滅、そして新たな支配体制の出現を冷静な筆致で描き出しています。
主人公フレデリックもまた、革命の渦に巻き込まれながらも、その理想と現実とのギャップに苦悩する一人として描かれています。彼は、革命によって社会が根本的に変わることを期待しますが、結局は何も変わらず、むしろ新たな不平等や矛盾が生み出されるのを目の当たりにします。フローベールは、フレデリックの disillusionmentを通して、政治と革命の持つ力と限界、そして人間の理想と現実との間の葛藤を描き出しています。