フローベールのサランボーの表現
描写の様式
フローベールは、「客観性」の理念に基づき、作者の主観や感情を排した描写を目指しました。その特徴として、詳細な描写が挙げられます。例えば、登場人物の衣装や装飾品、風景、建造物などが事細かに描写されています。これは、読者に直接イメージを喚起し、作品世界への没入感を高める効果を狙ったものです。
感覚的な表現
視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚といった五感を駆使した表現も特徴の一つです。色彩豊かな描写や、金属音、動物の鳴き声、香料や血の匂い、熱気や冷気などの描写を通して、読者はまるで古代カルタゴの騒乱の中にいるかのような臨場感を味わうことができます。
異国情緒の表現
古代カルタゴを舞台とした本作では、当時の文化や風俗を再現するために、多くの固有名詞や専門用語が用いられています。また、エキゾチックな風景描写や、異教の儀式、風習なども詳細に描かれており、読者に異世界を旅するような感覚を与えます。
比喩表現
フローベールは、比喩表現を用いることで、対象をより鮮やかに、印象的に描き出しています。特に、直喩や隠喩を多用し、人物の心情や情景の描写を深めています。例えば、サランボーの美しさは、「月の光のような」と表現されています。
文体
文体は、古典的なフランス語に基づいた格調高いものです。長文や倒置法を駆使し、重厚で荘厳な雰囲気を醸し出しています。しかし、一方で、短い文や口語表現も効果的に用いられており、リズム感と変化に富んだ文体となっています。