フッサールのヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学に影響を与えた本
フランツ・ブレンターノ著「心理学から見た経験主義」の影響
エトムント・フッサールの記念碑的作品「ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学」は、20世紀の思想に大きな影響を与えた作品です。第一次世界大戦後の西洋文明の危機に対するフッサールの応答として書かれたこの本は、理性、意味、人間の経験の本質に関する根本的な問題を提起しています。フッサールの思考の形成において、フランツ・ブレンターノの「心理学から見た経験主義」（1874年）ほど影響力を持った本はおそらくありません。ブレンターノ自身、影響力のある哲学者であり心理学者でしたが、フッサールの現象学への道筋をつける上で、彼の心理学における経験主義的アプローチが重要な役割を果たしました。
意識の志向性：意識の「対象へ向かうこと」
「心理学から見た経験主義」の中でブレンターノは、「意図性」または「対象へ向かうこと」の概念を通して、精神現象の独自の特徴づけを試みました。ブレンターノにとって、意図性はすべての意識的行為、すなわち、すべての思考、感情、知覚が必然的に何らかの対象に向けられているという事実を指します。私たちは常に何かについて考え、何かを感じ、何かを知覚しています。この対象へ向かうことこそが、意識を物理的世界の現象から区別するものです。
フッサールはブレンターノの意図性の概念を強く受け止め、それを現象学の中心に据えました。しかし、フッサールはブレンターノのアプローチをいくつかの重要な点で修正しました。ブレンターノは経験主義者の伝統の中で、自然科学の方法を通して意識を研究できると考えていました。対照的にフッサールは、意識の独自の性質には、経験科学の自然主義的方法とは異なる方法、すなわち、意識の現象そのものを記述し分析することに焦点を当てる方法が必要であると主張しました。
現象学的還元：本質への回帰
ブレンターノの影響から導き出されたフッサールの最も重要な貢献の1つは、「現象学的還元」の方法でした。フッサールは、私たちが自分の経験について語るとき、しばしば先入観や理論的な前提を持ち込んでいることを認識していました。これらの前提は、私たちが経験の本質を真に見ることを妨げます。現象学的還元は、これらの前提を括弧に入れる試みであり、それによって、意識の現象を、ありのままに、それ自体として明らかにすることができます。
フッサールは、現象学的還元を通じて、意識の構造と人間の経験の意味を構成する本質的な特徴を明らかにできると考えていました。このプロセスには、自然な態度、すなわち、世界とその中の対象の存在を当然のことと考える私たちの日常的な態度を放棄することが含まれます。その代わりに、私たちは現象学的態度を採用し、意識に現れる現象に焦点を当て、それらについて疑わしい判断を控えます。
ブレンターノの遺産：フッサールを超えて
ブレンターノの「心理学から見た経験主義」がフッサールの思考に与えた影響は過大評価することはできません。意図性の概念を提供することによって、ブレンターノはフッサールの現象学プロジェクト全体の舞台を整えました。意識と対象の関係に対するフッサールの関心、経験主義に対する批判、厳密で記述的な方法に対する重視は、すべてブレンターノの先駆的な研究にその起源をたどることができます。
さらに、ブレンターノの影響はフッサールの作品を超えて、20世紀の現象学とその後のヨーロッパ哲学の軌跡に大きな影響を与えました。意図性の概念は、マルティン・ハイデガーの存在論、ジャン＝ポール・サルトルの存在主義、モーリス・メルロー＝ポンティの身体現象学など、さまざまな思想家の作品の中心的な概念であり続けました。このように、ブレンターノの「心理学から見た経験主義」は、フッサールの現象学の形成に重要な役割を果たしただけでなく、20世紀の西洋思想の発展に永続的な遺産を残したのです。