フォークナーの八月の光を読む
作品概要
ウィリアム・フォークナーの代表作の一つである『八月の光』(1932年) は、アメリカ南部ミシシッピ州の架空の町ジェファーソンを舞台に、複雑に絡み合った複数の視点から語られる物語です。時間軸を行き来しながら、コンプソン家とその周辺の人々の30年にわたる歴史が、それぞれの記憶や独白を通して浮かび上がってきます。
主要な登場人物
* **クリス・クリスマス:** 身寄りのない孤児として育ち、自身の出生の秘密に苦悩する青年。
* **ジョー・クリスマス:** クリスの出生に関わるとされる謎の男。
* **レナ・グローブ:** 妊娠した状態でジェファーソンに現れ、クリスマスを探す旅をする女性。
* **バイロン・バンチ:** レナに協力する、敬虔な信心深い老人。
* **コンプソン家の三兄弟:**
* **クェンティン:** 南部の伝統と崩壊に苦悩し、自殺を選ぶ。
* **ジェイソン:** 冷酷で現実的な性格で、家族の財産に固執する。
* **キャディ:** 自由奔放な性格で、家族の因習に縛られずに生きることを選ぶ。
時間と視点の交錯
本作は、時系列に沿って物語が進むのではなく、過去と現在が複雑に交錯する構成となっています。それぞれの章で語り手が異なり、同じ出来事も異なる視点から描かれることで、読者は徐々に全体像を掴んでいくことになります。 このような時間と視点の交錯は、記憶の曖昧さと、過去の出来事がいかに現在に影響を及ぼすのかを表現する上で重要な役割を果たしています。
主なテーマ
* **人種とアイデンティティ:** クリス・クリスマスの出生の秘密と、彼が白人社会で抱える苦悩を通して、人種差別や偏見が浮き彫りになる。
* **過去と現在:** コン プソン家の没落と、登場人物たちの過去のトラウマが、いかに現在に影響を及ぼすかが描かれる。
* **愛と喪失:** 様々な形の愛と喪失を通して、人間の心の複雑さが表現される。
* **罪と贖罪:** 登場人物たちはそれぞれ過去の罪と向き合い、贖罪を求めて苦悩する。
フォークナー独特の文体
フォークナーは、意識の流れや長文、独特の比喩表現を駆使した難解な文体で知られています。本作でも、登場人物の心理描写を中心に、複雑な文章構造や詩的な表現が用いられています。 読解には時間を要するかもしれませんが、フォークナーの創り出す独特な世界観に浸ることができるでしょう。