フォークナーの八月の光の語り口
語り
「八月の光」は、全知的な語り手と、登場人物の一人称の視点が交錯する複雑な語り方で知られています。
小説は大きく４つのセクションに分かれており、各セクションで異なる語り方が採用されています。
* **パート１：** 精神的に不安定なベンジャミン・コムソンの視点から語られます。彼の意識は時間と空間を自由に行き来するため、読者は彼の断片的な思考を追うことになります。
* **パート２：** ベンジャミンの兄クエンティン・コムソンの視点から語られます。彼もまた、過去と現在を行き来しながら、家族の崩壊と妹に対する歪んだ愛情について語ります。
* **パート３：** コムソン家の黒人の使用人であるディルシーの視点から語られます。彼女は、長年にわたりコムソン家に仕え、家族の秘密をすべて知っています。彼女の語りは、他のセクションとは対照的に、明瞭で客観的なものです。
* **パート４：** 再び全知的な語り手の視点に戻ります。ここでは、ベンジャミンとクエンティンの弟ジェイソンを中心に、物語が収束していきます。
時間
フォークナーは、この小説において、直線的な時間の流れを放棄しています。代わりに、登場人物の意識の流れに沿って、過去、現在、未来が入り混じります。
特にベンジャミンとクエンティンのセクションでは、彼らの記憶や思考が、読者にとって分かりにくい形で提示されます。この複雑な時間構成は、登場人物たちの心理状態を反映しており、彼らが過去に囚われていることを示唆しています。
文体
フォークナーは、登場人物の心理状態や社会的な立場を反映した、独特の文体を用いています。
* **ベンジャミン：** 彼の文章は、句読点がほとんどなく、文法も破綻しています。これは、彼の精神的な障害と、世界を理解することができない様子を表しています。
* **クエンティン：** 彼の文章は、ベンジャミンよりは洗練されていますが、それでも複雑で難解です。彼の文章は、彼の知性と、同時に彼の内面の葛藤を反映しています。
* **ディルシー：** 彼女の文章は、他のセクションとは対照的に、簡潔で明瞭です。これは、彼女が現実主義者であり、コムソン家の混乱の外側にいることを示唆しています。
フォークナーは、それぞれの語り手の声と文体を変えることで、登場人物たちの内面世界を鮮やかに描き出しています。
これらの要素が組み合わさることで、「八月の光」は、読者に挑戦的で、しかし同時に深い感動を与える小説となっています。