フォークナーのアブサロム、アブサロム!
語り手と時間の扱い
複雑な語り口が特徴的で、物語は全知の語り手ではなく、事件の当事者ではない複数の語り手によって語られます。
* **ローザ・コールドフィールド:** 物語は、南北戦争以前のジェファーソンに住む老婦人であるローザの回想から始まります。ローザは、サトペンの歴史と、特にコンプソン家とサトペン家にまつわる謎めいた出来事について独自の視点を持っています。
* **クエンティン・コンプソン:** ハーバード大学の学生であるクエンティンは、ローザの断片的な話を聞き、彼自身の家族の歴史と重ね合わせながら、サトペンの過去を理解しようと苦悩します。
* **クエンティンの父親:** 名前は明かされませんが、クエンティンの父親は、サトペン家の真実について、彼自身の解釈をクエンティンに語り聞かせます。彼の語りは、歴史的事実と推測が入り混じっています。
* **シュリーヴ・マッキャノン:** クエンティンのルームメイトであるシュリーヴは、物語の後半に登場します。彼は、外部の人間の視点から、サトペンの物語を客観的に理解しようとします。
時間の流れ
物語は、過去と現在を行き来しながら、断片的に語られます。読者は、それぞれの語り手の視点や時間の流れの変化を読み解きながら、サトペン家の歴史をパズルのように組み立てていくことになります。
主要なテーマ
* **奴隷制と人種差別:** 南北戦争前の南部を舞台に、奴隷制がサトペン家の崩壊にどのように影響を与えたのかが描かれています。特に、トーマス・サトペンの混血の息子、チャールズ・ボンの存在は、人種差別と社会の矛盾を浮き彫りにします。
* **家族と歴史の呪縛:** サトペン家は、過去に犯した罪や隠された秘密によって、世代を超えて苦しめられます。物語は、家族の歴史がいかに現在に影響を与えるのかを問いかけます。
* **愛と喪失:** 物語には、様々な形の愛と喪失が描かれています。ヘンリーとボンの禁断の愛、ローザの叶わぬ恋、クエンティンが抱えるサトペン家への愛憎など、複雑な感情が交錯します。
サトペン家の歴史
トーマス・サトペンが、奴隷を使って築き上げたサトペン家の栄光と没落が描かれます。彼の野心、人種差別、近親相姦などの罪が、家族に悲劇をもたらす要因となります。
聖書のモチーフ
タイトルは、旧約聖書の「サムエル記」に登場するアブサロムの物語を暗示しています。アブサロムは、父親であるダビデ王に反旗を翻し、悲劇的な死を迎えます。このモチーフは、トーマス・サトペンと彼の息子ヘンリー、チャールズ・ボンの関係に重ね合わせることができます。