## フォークナーの『サンクチュアリ』の美
フォークナーの『サンクチュアリ』は、その残虐性と絶望的な雰囲気で知られる作品であり、一般的には「美しい」小説とは見なされていません。しかし、この作品には独特の美しさが確かに存在します。以下に、具体的な例を挙げながら詳しく解説していきます。
１．ゴシック的な描写の美しさ
フォークナーは、南部ゴシック文学の伝統を受け継ぎ、朽ち果てた屋敷、暗い森、湿度の高い空気など、不吉で退廃的なイメージを巧みに描写しています。
例えば、物語の舞台となるフランス人の沼地は、じめじめとした不気味な場所として描かれ、登場人物たちの不安や絶望感を増幅させる効果を生み出しています。
また、老朽化した屋敷「オールド・フレンチマン・プレイス」も、過去の栄光を失い、崩壊の一途をたどる南部の象徴として、陰鬱ながらも美しいイメージを読者に印象づけます。
２．詩的な言語の美しさ
フォークナーは、比喩や象徴、感覚的な描写を駆使し、登場人物の心理状態や物語の雰囲気を効果的に表現しています。
例えば、テンプル・ドレイクのレイプシーンでは、彼女の恐怖や絶望が、周囲の風景描写と重ね合わせられ、詩的な表現によって描かれています。
また、物語全体を通して、南部特有の訛りやリズムを再現したフォークナーの文体は、独特の音楽性と美しさを作品にもたらしています。
３．人間の闇と対比される自然の美しさ
『サンクチュアリ』では、人間の暴力や残酷さとは対照的に、自然は美しく、時に残酷なまでに無関心に描かれています。
例えば、物語の冒頭で描かれる、夕暮れの空の色や、風のそよぎは、人間の醜い争いとは無関係に、その美しさを保ち続けています。
このような自然描写は、人間の存在の小ささや、抗いようのない運命の力を際立たせる効果を生み出しています。