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フォークナーの『アブサロム、アブサロム!』の力

## フォークナーの『アブサロム、アブサロム!』の力

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語りと言語の力

『アブサロム、アブサロム!』の最も顕著な特徴の一つは、その複雑な語り口にあります。フォークナーは、全知的な語り手を用いず、登場人物たちの主観的な視点を通して物語を紡ぎ出していきます。読者は、クェンティン・コンプソン、彼のルームメイトのシュリーヴ、ローザ・コールドフィールド、ジェイソン・コンプソン三世といった登場人物たちの語りを通して、断片的に事件を理解していくことになります。

それぞれの声は、独自の文体、方言、偏見を持ち、過去の出来事に対する解釈も異なります。読者は、この多様な語りを通して、客観的な真実ではなく、それぞれの人物の主観を通して構築された「真実」に触れることになります。

また、フォークナーは、意識の流れ、長いセンテンス、反復、比喩といった多彩な言語表現を用いることで、登場人物たちの内面世界を鮮やかに描き出しています。特に、時間の流れにとらわれない意識の流れは、過去の出来事が現在の登場人物たちにどのように影響を与え続けているのかを浮き彫りにします。

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歴史と記憶の力

『アブサロム、アブサロム!』は、南北戦争以前のアメリカ南部を舞台に、サトペン家の興亡を描いた物語です。しかし、フォークナーは単なる歴史小説の枠を超え、歴史と記憶がいかに複雑に絡み合っているのかを深く掘り下げています。

物語は、過去に起こった出来事が、現在の人々の行動や心理に暗い影を落とす様子を描き出しています。登場人物たちは、過去の出来事をそれぞれに解釈し、再構築することで、自らのアイデンティティや存在意義を見出そうとします。

しかし、記憶は常に曖昧で、主観的な解釈に左右されるものです。登場人物たちが語るサトペン家の歴史は、それぞれが信じる「真実」であり、客観的な事実とは異なる場合があります。フォークナーは、歴史とは単なる過去の出来事の記録ではなく、現在の人間によって解釈され、再構築されるものだということを示唆しています。

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南部の歴史とトラウマの力

『アブサロム、アブサロム!』は、南北戦争と奴隷制というアメリカ南部の歴史が、いかに人々の心に深い傷跡を残したかを描き出した作品でもあります。サトペン家の悲劇は、奴隷制、人種差別、階級社会といった、南部の負の遺産と密接に関係しています。

特に、トーマス・サトペンという人物は、野心、支配欲、人種差別的な偏見に囚われた、南部の複雑な歴史を体現する存在として描かれています。彼の悲劇的な結末は、過去の罪から逃れられない南部の宿命を象徴しているかのようです。

フォークナーは、美しい風景描写の裏に潜む南部の暗い歴史を描き出すことで、読者にその歴史と向き合うことを迫っています。登場人物たちのトラウマは、過去の出来事がいかに現在にまで影響を及ぼすのかを示すとともに、読者に自らの歴史と向き合うことの重要性を問いかけます。

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