ピレンヌのベルギー史の批評
ピレンヌのベルギー史
アンリ・ピレンヌの著書『ベルギー史』 (Histoire de Belgique) は、ベルギーの歴史学において極めて重要な作品として位置付けられています。19世紀後半から20世紀前半にかけて活躍したピレンヌは、綿密な史料批判と革新的な解釈によって、それまでのベルギー史認識に大きな変革をもたらしました。
客観性と史料批判
ピレンヌは、歴史研究において客観性を重視し、可能な限り一次史料に基づいた記述を心がけました。彼は、中世の年代記や公文書などを丹念に分析し、従来の通説や偏見にとらわれない歴史叙述を目指しました。
ローマ期から中世への連続性
ピレンヌは、従来のゲルマン中心史観を批判し、ローマ帝国滅亡後もガロ・ローマ文化が継続していたことを強調しました。彼は、フランク王国においてもローマの行政機構や法制度が受け継がれ、それが後のベルギー国家形成の基盤となったと主張しました。
経済史の重視
ピレンヌは、政治史や文化史だけでなく、経済史にも注目しました。彼は、中世都市の興隆や商業の発展が、ベルギーの国家形成に大きな影響を与えたことを明らかにしました。
批判と評価
ピレンヌのベルギー史は、その学術的な厳密さと革新的な解釈によって高く評価される一方で、いくつかの批判も指摘されています。
国家論に対する批判
ピレンヌは、ベルギー国家の起源を中世に求める立場をとりましたが、これは一部の歴史家から批判されています。彼らは、ベルギー国家が成立したのは19世紀であり、ピレンヌの主張は歴史的な根拠に乏しいと反論しています。
地域間の差異の軽視
ピレンヌは、ベルギーを単一の歴史的 Einheit として捉える傾向がありましたが、これはフランドル地方とワロン地方の地域的な差異を軽視しているという批判もあります。
結論
ピレンヌのベルギー史は、その後の歴史学研究に多大な影響を与えた金字塔的な作品です。彼の客観的な史料批判や革新的な解釈は、現代のベルギー史研究においても重要な示唆を与え続けています.