## ヒルファーディングの金融資本論の対極
ヨーゼフ・A・シュンペーター「経済発展の理論」
ルドルフ・ヒルファーディングの『金融資本論』(1910年)は、マルクス経済学の枠組みで資本主義の進化、特に銀行と産業の融合、そしてその政治的、経済的影響について分析した作品です。本書は、資本主義が必然的に独占資本主義へと進化し、最終的には社会主義革命によって転覆されると主張しました。
これに対し、ヨーゼフ・A・シュンペーターの『経済発展の理論』(1912年)は、全く異なる視点から資本主義のダイナミズムを捉えています。シュンペーターは、資本主義の本質を **”創造的破壊”** という概念で説明しました。彼は、既存の技術や生産方法を破壊し、新しい技術や製品を生み出す **”企業家”** こそが、経済発展の原動力であると主張したのです。
シュンペーターは、ヒルファーディングが重視した金融資本よりも、むしろ **イノベーション** を経済発展の鍵と見なしました。彼は、企業家が新しい製品、新しい生産方法、新しい市場、新しい原料供給源、新しい組織形態などを導入することで、一時的な独占利潤を獲得し、それが経済全体に波及効果をもたらすと論じました。
シュンペーターの理論において、銀行などの金融機関は、企業家に資金を提供することでイノベーションを促進する役割を担いますが、あくまでも **”助演者”** に過ぎません。主役はあくまで、リスクを取ってイノベーションに挑戦する **”企業家”** です。
このように、『金融資本論』と『経済発展の理論』は、資本主義のダイナミズムをそれぞれ **”金融資本”** と **”イノベーション”** という異なる視点から分析した点で、対照的な作品と言えるでしょう。前者が資本主義の終焉を予言したのに対し、後者は資本主義のダイナミズムを肯定的に評価した点も、大きな違いです。