パシュカーニスの法の一般理論とマルクス主義の原点
パシュカーニスの生い立ちと知的背景
エヴゲーニ・パシュカーニス(1898-1937)は、ロシア革命期に活躍したソビエト法学者であり、マルクス主義法理論の代表的な論者の一人として知られています。彼は、帝政ロシア時代の1898年にリトアニアの地主の家庭に生まれ、モスクワ大学で法学を学びました。学生時代からマルクス主義の影響を受け、ロシア革命にも積極的に参加しました。
「法の一般理論とマルクス主義」の内容
1924年に発表されたパシュカーニスの主著「法の一般理論とマルクス主義」は、マルクス主義の唯物史観に基づいて資本主義社会における法の本质を分析した著作です。パシュカーニスは、従来の法哲学が法の形式的な側面や観念的な側面に偏っていたのに対し、法の物質的な基盤に焦点を当て、法を生産関係の反映として捉え直しました。
商品交換と法形態
パシュカーニスは、資本主義社会を特徴づける商品経済に着目し、商品交換の過程における当事者の関係を分析しました。彼は、商品所有者が市場において対等な立場から自由な意思に基づいて契約を結ぶという資本主義社会の原則が、法的形式を生み出すと主張しました。
法的主体の抽象性と法的関係の客観性
パシュカーニスによれば、商品交換の関係は、法的主体として抽象化された個人間の関係として現れます。法的主体は、その社会的立場や具体的な属性とは無関係に、形式的に平等な権利と義務を有する存在として位置づけられます。また、法的な権利と義務は、当事者の主観的な意思とは独立した客観的な規範として規定されます。
法のイデオロギー機能
パシュカーニスは、法の形式的な平等性が、現実の社会における階級対立を覆い隠し、資本主義体制を正当化するイデオロギーとして機能すると批判しました。彼は、法が支配階級の利益を擁護するための道具として利用されていると主張し、真の平等を実現するためには、階級社会そのものを克服する必要があると結論づけました。