バタイユのニーチェについての対称性
バタイユとニーチェにおける
主題の対称性
バタイユとニーチェの作品には、いくつかの顕著な共通点が存在します。
第一に、両者はともに、西洋理性主義の伝統に批判的な立場をとっていました。バタイユは、ヘーゲルの弁証法を批判し、ニーチェは、ソクラテス以来の西洋哲学を「ニヒリズム」と断罪しました。
第二に、両者はともに、人間の非合理的な側面、すなわち、理性では捉えきれない情念や欲望、生の力といったものに注目しました。バタイユは、それを「エロス」や「聖なるもの」と呼び、ニーチェは、「ディオニュソス的」なものと表現しました。
第三に、両者はともに、既存の価値観の転倒を主張しました。バタイユは、消費や浪費、エロティシズムといった、従来の道徳観念からは否定的に見なされてきたものを肯定的に捉え直そうとしました。ニーチェもまた、「超人」という概念を提示することで、従来の道徳や価値観を超越することを呼びかけました。
これらの共通点は、バタイユがニーチェから強い影響を受けていたことを示唆しています。バタイユ自身も、ニーチェを「最も重要な思想家の一人」として高く評価し、その影響関係を公言しています。
バタイユによるニーチェ解釈の
特異性
しかしながら、バタイユは単にニーチェの思想を模倣したわけではありませんでした。彼は、独自の視点からニーチェを解釈し、彼自身の思想へと発展させています。
例えば、ニーチェは、「力への意志」という概念を提唱し、人間存在を「絶えず自己を超克していく過程」として捉えました。一方、バタイユは、ニーチェの「力への意志」を、より根源的な「死に到る欲動」として解釈しました。バタイユによれば、人間は、自己保存の本能とは相反する、自らを消滅させようとする衝動を抱えており、この衝動こそが、人間の根底にある力であるとされます。
また、ニーチェは、「永劫回帰」という思想を提示し、時間と存在の無限の反復を説きました。バタイユもまた、ニーチェの「永劫回帰」の概念を重視しましたが、彼はそれを、時間的な反復ではなく、瞬間的な超越として解釈しました。バタイユにとって、永劫回帰とは、有限な自己を消滅させ、無限なるものと一体化する体験を意味していました。
このように、バタイユは、ニーチェの思想を批判的に継承しつつ、独自の哲学体系を構築していきました。彼がニーチェから受けた影響は計り知れませんが、同時に、バタイユ自身の思想の独自性もまた、見過ごすことはできません.