バジョットのイギリス憲政論が扱う社会問題
バジョットの「イギリス憲政論」における社会問題
ウォルター・バジョットの『イギリス憲政論』(1867年)は、イギリスの政治体制を考察した古典的名著として知られています。バジョットは同書において、イギリスの政治体制を「dignified parts(尊厳的部分)」と「efficient parts(効率的部分)」という二つの側面から分析し、当時のイギリス社会における様々な問題を浮き彫りにしています。
社会問題としての「尊厳的部分」と「効率的部分」の乖離
バジョットは、イギリスの政治体制が「尊厳的部分」と「効率的部分」の均衡の上に成り立っていると論じました。「尊厳的部分」とは、国民感情に訴えかけ、政治体制への忠誠心を維持するための象徴的な側面を指します。一方、「効率的部分」は、実際の政治的意思決定を行い、政策を実行していく側面を指します。
バジョットは、19世紀後半のイギリスにおいて、この二つの部分の間に乖離が生じていることを指摘しました。具体的には、国民の政治参加が拡大する一方で、実際の政治権力は限られたエリート層に集中し続けているという問題です。
拡大する選挙権と政治参加の不平等
バジョットの時代、イギリスでは1832年の選挙法改正以降、選挙権の拡大が進みつつありました。しかし、依然として多くの労働者階級や貧困層は選挙権を持たず、政治参加の機会は限られていました。
バジョットは、このような状況下では、「尊厳的部分」と「効率的部分」の乖離が拡大し、政治体制に対する国民の不信感が高まると警告しました。彼は、政治体制の安定のためには、国民の政治参加を拡大し、「効率的部分」をより民主的なものへと改革していく必要があると主張しました。
社会の複雑化と政治の専門化
19世紀後半のイギリスは、産業革命の進展によって社会が複雑化し、政治課題も高度化していました。このような状況下では、政治の専門化が不可避となる一方、一般市民にとっては政治が理解しづらいものとなり、政治参加への意欲が低下する可能性も孕んでいました。
バジョットは、政治の専門化が進む一方で、一般市民の政治リテラシーを高め、政治参加への意識改革を進めていくことの重要性を説きました。彼は、教育の普及や言論の自由の保障などを通じて、市民が政治について主体的に考え、行動できるような社会の実現を目指しました。
社会の分断と「世論」の形成
バジョットは、社会階層間の格差や地域間の経済格差など、当時のイギリス社会における分断にも目を向けました。彼は、このような社会の分断が深刻化すると、「世論」が形成されにくくなり、政治的意思決定が困難になると考えました。
バジョットは、「世論」の形成には、異なる意見を持つ人々が自由闊達に議論し、合意形成を目指すことが不可欠だと考えました。彼は、言論の自由や結社の自由など、市民社会における自由な活動を保障することの重要性を強調しました。