## ハートの法の概念の思考の枠組み
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ハートの法概念における重要な要素
ハートの法概念を理解する上で、いくつかの重要な要素が存在します。 まず、ハートは法を**「一次規則」**と**「二次規則」**という二つのレベルで捉えています。一次規則は、個人の行動を直接的に規制する規則であり、一般的な法規範(殺人や窃盗の禁止など)が該当します。一方、二次規則は、一次規則を運用するための規則であり、「承認の規則」、「変更の規則」、「裁定の規則」の三つに分類されます。
* **承認の規則**は、社会において有効な規則を特定するための規則です。例えば、立法手続きや慣習法の形成などがこれにあたります。
* **変更の規則**は、既存の規則を改正したり、新しい規則を制定したりするための規則です。立法行為などがその典型例です。
* **裁定の規則**は、規則の違反を判断し、法的効果を与えるための規則です。裁判制度や紛争解決手続きなどが該当します。
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「規則による社会」と「義務の概念」
ハートは、法を単なる強制や命令として捉える見方を批判し、「規則による社会」という概念を提唱しました。 ハートは、社会における秩序は、人々が共通の規則を理解し、それに従って行動することによって成り立っていると主張します。この際、重要なのは、「義務」の概念です。
ハートは、「義務」を単なる心理的な強制や圧力ではなく、「規則に基づく義務」として捉えました。つまり、人々が特定の行動をとるべきだという感覚を持つのは、それが社会において受け入れられた規則によって義務付けられていると認識しているため、という考え方です。
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内部視点と外部視点
ハートは、規則に対する人々の態度を分析するために、「内部視点」と「外部視点」という二つの視点を導入しました。
* **外部視点**は、観察者が客観的に規則を記述する視点です。例えば、「この社会では、信号が赤のときに横断すると罰せられる」といった記述は、外部視点によるものです。
* **内部視点**は、規則を共有する社会の成員が持つ視点であり、規則を「従うべきもの」として理解し、自らの行動の基準としています。
ハートは、法体系が有効に機能するためには、少なくとも役員や公務員などの社会の中核を担う人々が、法規則に対して内部視点を持つことが必要であると主張しました。
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法と道徳の関係
ハートは、法と道徳の関係について、両者は概念的に区別されると主張しました。これは、法実証主義と呼ばれる立場です。ハートは、法が道徳的に正当化される必要はなく、法と道徳は別個のシステムとして存在しうると考えました。
しかし、ハートは法と道徳が完全に無関係であるとも考えていませんでした。彼は、法と道徳の間には、社会の存続に必要な最小限の共通部分が 存在すると認めました。例えば、殺人や暴力を禁止する規則などは、多くの社会において法と道徳の両方で共有されています。
これらの要素を理解することが、ハートの法概念を深く理解する上で重要となります。