## ハイデガーの「存在と時間」とアートとの関係
「存在と時間」におけるアートの位置づけ
ハイデガーの主著『存在と時間』は、1927年の刊行にも関わらず未完に終わった大著であり、その中でアートは主要なテーマとしては扱われていません。ハイデガーが本格的にアートについて論じるのは、1935年から36年にかけて執筆された論考「芸術作品の根源」においてです。
「真理」と「世界開示」としての芸術
「芸術作品の根源」においてハイデガーは、アートを単なる美的鑑賞の対象としてではなく、「真理」が「開示」される出来事として捉えます。彼によれば、真理とは、古代ギリシャ語のアレーテイアが本来の意味するように、隠されていたものが「開かれ」てくることを意味します。そして、芸術作品は、我々が普段意識することのない「存在」を、具体的な形をもって出現させることで、「真理」を開示するのだと言います。
作品における「土」と「世界」
ハイデガーは、芸術作品を「土」と「世界」という二つの要素から分析します。「土」とは、作品が制作される素材や技法、様式といったものを指し、「世界」とは、作品を通して開示される、我々の存在を規定する意味の地平を指します。彼は、優れた芸術作品においては、「土」と「世界」が緊密に結びつき、互いに高め合うことで、「真理」の開示という出来事が生じると考えました。
ギリシャ神殿を例に
例えば、ハイデガーは、ギリシャ神殿を例に挙げ、その建築様式と、そこに開示される古代ギリシャ人の世界観との関係を分析しています。神殿の石柱や屋根といった「土」は、単なる建築材料ではなく、古代ギリシャ人にとっての神聖な空間と、それを支える世界観を表現しています。このように、芸術作品は、「土」と「世界」の相互作用を通じて、特定の時代や文化における「存在」のあり方を明らかにするのです。
「芸術作品の根源」における考察
「芸術作品の根源」におけるハイデガーの考察は、芸術作品を単なる美的対象としてではなく、「存在」と「真理」の問題を考えるための重要な手がかりとして位置づけるものでした。彼の分析は、その後の芸術論に大きな影響を与え、現代アートの解釈にも新たな視点を提供するものとして、現在もなお重要な意義を持っています。