ノージックのアナーキー・国家・ユートピアの評価
ノージックの主張
ロバート・ノージックの『アナーキー・国家・ユートピア』(1974年)は、20世紀後半の政治哲学における最も影響力のある著作の一つです。この中でノージックは、個人は「侵害されない権利」を有しており、いかなる国家もそれを侵害することは正当化できないと主張しました。
肯定的な評価
* **リバタリアニズムの古典**: ノージックの著作は、リバタリアニズム、特にその中の「ミニマル国家主義」と呼ばれる立場を擁護した代表的なものとして高く評価されています。彼は、個人の自由を最大限に尊重する最小限の国家の必要性を論理的に展開し、その後のリバタリアニズムの議論に大きな影響を与えました。
* **権利論**: ノージックは、個人の権利を「侵害されないもの」として捉え、それを国家の正当性の基礎に置いた点で、権利論に基づいた政治哲学に大きな貢献をしました。特に、ジョン・ロックの自然権論を現代的に解釈し、発展させたことは高く評価されています。
* **エンタイトルメント理論**: 分配の正義に関する「エンタイトルメント理論」は、ノージックの独創的な貢献の一つとして評価されています。彼は、結果の平等よりも、取得と移転の正義を重視し、自由市場における取引を正当化しました。
批判的な評価
* **現実性**: ノージックの理想とする最小限国家は、現実には実現不可能なユートピアに過ぎないという批判があります。複雑な現代社会において、個人の権利を保護し、社会秩序を維持するために、より広範な国家の役割が必要となるという指摘があります。
* **歴史的背景**: ノージックの理論は、特定の歴史的背景、特に冷戦下のイデオロギー対立を反映したものであるという批判もあります。彼の反共産主義的な立場が、最小限国家という理想に繋がっているという指摘があります。
* **社会福祉**: ノージックは、社会福祉や再分配政策を個人の権利の侵害と見なしていますが、これは弱者に対する配慮を欠いた理論であるという批判があります。社会的不平等や不遇な立場にある人々に対する責任を、国家は負うべきであるという考え方が根強く存在します。
その後の議論への影響
ノージックの著作は、出版から半世紀近く経った現在も、政治哲学、倫理学、法哲学などの分野で活発な議論の対象となっています。特に、個人の権利、国家の役割、分配の正義といった問題について、彼の提起した論点は、現代社会における様々な課題を考える上で重要な視点を提供しています。