ニーチェの善悪の彼岸の関連著作
ショーペンハウアー「意志と表象としての世界」
ニーチェの思想に最も大きな影響を与えた作品として知られるのが、ショーペンハウアーの主著『意志と表象としての世界』です。
この作品でショーペンハウアーは、カント哲学を独自に解釈し、世界の本質を「意志」として捉えました。
世界の現象はすべてこの「意志」の表れであり、人間もまた、その苦悩に満ちた「意志」から逃れられない存在として描かれています。
ニーチェは、当初ショーペンハウアーの思想に深く傾倒し、特に「意志」の概念や、芸術による一時的な救済の可能性などに共鳴しました。
しかし、後年にはショーペンハウアーの厭世的な側面や、禁欲主義的な倫理観を批判するようになり、独自の思想を展開していきます。
プラトン「国家」
プラトンの代表作である『国家』は、理想的な国家の在り方を探求した対話篇です。
ソクラテスを対話の導き手として、正義、勇気、知恵といった徳の概念や、哲人王による統治の理想などが議論されます。
ニーチェは、プラトンの思想を、後の西洋哲学の根底をなすものとして批判的に検討しました。
特に、『善悪の彼岸』においては、プラトンの提唱する「イデア」の概念や、真・善・美を同一視する考え方を、感性や現実の世界を軽視した「ニヒリズム」の萌芽として批判しています。
ドストエフスキー「罪と罰」
ロシア文学を代表する作家ドストエフスキーの『罪と罰』は、貧困から逃れるため老婆を殺害した青年ラスコーリニコフの苦悩と葛藤を描いた心理小説です。
ニーチェはドストエフスキーを「唯一の心理学者の師」と呼び、その深遠な人間心理の描写から大きな影響を受けました。
『罪と罰』における、主人公の罪悪感、良心の呵責、そして神への希求といったテーマは、ニーチェの思想にも通底するものがあります。
ニーチェは、伝統的な道徳や宗教を乗り越えようとする中で、ドストエフスキーの作品が提示する人間の深淵を深く洞察していたと考えられます。
スピノザ「エチカ」
バールーフ・デ・スピノザの主著『エチカ』は、幾何学的な証明方法を用いて、神、自然、人間、感情、自由などを体系的に論じた哲学書です。
スピノザは、神と自然を同一視する汎神論を主張し、理性に基づいた倫理学を展開しました。
ニーチェは、スピノザの合理主義的な思想や、情念を抑制する倫理観を批判的に評価しつつも、その体系的な哲学構築の試みには一定の敬意を示していました。
特に、スピノザの「神への知的愛」という概念は、ニーチェ自身の「超人」の思想にも影響を与えた可能性が指摘されています。