## ナボコフのロリータと時間
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時間の流れの歪み
ナボコフの『ロリータ』では、時間の流れが客観的なものではなく、ハンバートの主観によって歪められている点が特徴的です。
例えば、物語は時系列に沿っては進まず、ハンバートの記憶に基づいて語られます。彼は過去の出来事を回想する際に、都合の良いように時間軸を操作し、自身の犯罪を正当化しようとします。
さらに、ハンバートはロリータとの時間を永遠に留めようとするあまり、現実の時間と彼の願望との間に齟齬が生じます。ロリータが成長するにつれて、ハンバートの歪んだ時間観はより一層強調されます。
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反復とパターン
『ロリータ』では、時間的な反復やパターンが頻繁に登場します。例えば、ハンバートは幼少期の恋人アナベルとの死別というトラウマを抱えており、ロリータにアナベルの面影を重ねています。
この過去のトラウマが、現在のハンバートの行動を規定している点が、時間の反復性を示唆しています。また、ハンバートはロリータとの旅の中で、似たようなモーテルや観光地を繰り返し訪れます。
これは、彼がロリータとの時間を永遠に繰り返そうとする願望の表れでもあり、同時に、それが叶わぬ願いであることを暗示しています。
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記憶と時間
『ロリータ』は、ハンバートによって語られる物語であるため、彼の記憶が重要な役割を果たします。
しかし、彼の記憶は曖昧で、自己中心的であり、必ずしも信頼できるものではありません。彼は自身の記憶を操作することで、ロリータとの関係を美化し、自身の罪悪感を軽減しようとします。
このことから、時間と記憶の関係性の不安定さが浮き彫りになります。