ドッブの価値と分配の諸理論と人間
ドッブの価値と分配の諸理論
モーリス・ドッブは、20世紀のイギリスを代表するマルクス経済学者の一人です。彼は、資本主義経済における価値と分配の問題に生涯を通じて取り組み、古典派経済学とマルクス経済学の双方に対して鋭い批判と独自の解釈を展開しました。
ドッブの価値論は、マルクスの『資本論』における価値形態論と剰余価値論を基盤としています。彼は、商品価値の源泉は労働であり、資本家の利潤は労働者の剰余価値の搾取によって生み出されると主張しました。また、ドッブは、資本主義経済における競争は、個々の資本家を労働生産性の向上と生産費の削減に駆り立てることで、資本蓄積と経済成長をもたらすと同時に、労働の搾取率を高め、階級対立を激化させると論じました。
分配論において、ドッブは、賃金、利潤、地代といった分配範疇が、生産過程における階級関係と力関係によって決定されると考えました。彼は、労働組合の組織率や労働市場の需給関係などの要因が、労働者の交渉力を左右し、賃金水準に影響を与えることを指摘しました。また、ドッブは、資本蓄積と技術進歩が、利潤率の低下傾向をもたらすと同時に、資本家間の競争と集中を促進し、所得と富の不平等を拡大すると主張しました。
人間
ドッブの経済理論は、人間に対する深い洞察に基づいています。彼は、人間を労働を通して自己実現を追求する存在として捉え、資本主義社会における労働の疎外と搾取に強い批判を向けました。ドッブは、人間が真に自由で平等な社会を実現するためには、生産手段の私的所有を廃止し、労働者が生産過程を民主的に管理する社会主義社会を構築する必要があると主張しました。
ドッブの思想は、経済学の枠組みを超えて、哲学、歴史学、社会学など幅広い分野に影響を与えました。彼は、マルクス主義の理論と実践に多大な貢献を果たすと同時に、資本主義社会における人間疎外と社会的不公正の問題を鋭く告発し、より人間的で公正な社会の実現を訴え続けました。