Skip to content Skip to footer

ドストエフスキーの罪と罰から学ぶ時代性

## ドストエフスキーの罪と罰から学ぶ時代性

###

19世紀ロシアの混沌と不安

 ドストエフスキーの『罪と罰』は、1860年代のロシア、サンクトペテルブルクを舞台に描かれています。この時期のロシアは、農奴解放令(1861年)後の社会変革期にあたり、伝統的な価値観と新しい思想が激しく対立していました。資本主義の台頭は都市部に貧富の格差を生み出し、主人公ラスコーリニコフのような貧困に苦しむ人々が増加しました。

 ラスコーリニコフは、優秀でありながら貧困のために大学を中退し、未来への希望を見出せずにいます。彼は、当時のロシア社会に蔓延する貧困、格差、不条理といった社会問題に深く影響を受けています。彼の思想は、ナポレオンのような「超人」は、社会の道徳や法律を超越した存在であり、偉大な目的のためには手段を選ばないという考え方に傾倒していきます。これは、当時のロシアで流行したニヒリズムや功利主義といった思想の影響が色濃く反映されています。

###

社会と個人の倫理の葛藤

 ラスコーリニコフの犯罪は、彼自身の貧困からの解放という個人的な動機と、社会全体の幸福を追求する「超人」思想に基づく社会的な動機が複雑に絡み合っています。彼は金貸しの老婆を「社会の害悪」とみなし、殺害は社会全体の利益になると正当化しようとします。

 しかし、罪を犯した後のラスコーリニコフは、激しい罪悪感と不安に苛まれます。これは、社会道徳や法律を超越した存在であろうとした「超人」思想の破綻と、人間としての良心との葛藤を示しています。ドストエフスキーは、ラスコーリニコフの苦悩を通して、社会と個人の倫理、理性と感情、罪と罰といった普遍的なテーマを深く掘り下げています。

###

信仰と贖罪の模索

 苦悩するラスコーリニコフの前に現れるソーニャは、彼とは対照的に、貧困や苦難の中でも信仰を失わず、愛と献身によって生きる女性です。彼女は、ラスコーリニコフに自首を促し、苦しみを通して魂の救済を得るよう導きます。

 ソーニャの言葉を通して、ドストエフスキーは当時のロシア社会における信仰の重要性を示唆しています。信仰は、社会の矛盾や不条理に対する慰めとなり、人々に生きる希望を与えていました。ラスコーリニコフの贖罪の道のりは、信仰と愛によってのみ、真の救済が可能であることを示唆しています。

Amazonで購入する

Leave a comment

0.0/5