トルストイの復活から学ぶ時代性
近代社会の矛盾と罪の意識
『復活』は19世紀末のロシアを舞台に、貴族の青年ネフリュードフと、彼が過去に犯した罪によって身を落とした女性カチューシャ・マースロワの魂の軌跡を描いています。トルストイは、華やかな貴族社会の陰に潜む貧困や不平等、そして当時の司法制度や刑罰の矛盾を鋭く告発しています。
ネフリュードフは、自身の享楽的な過去と、それがカチューシャの人生に与えた取り返しのつかない影響に苦悩し、罪の意識に苛まれます。彼は、自らの罪を償うために、そしてカチューシャの魂の救済のために、法廷で彼女を弁護し、シベリア流刑に同行することを決意します。このネフリュードフの苦悩は、当時のロシア社会が抱えていた矛盾と、それに対する知識人たちの倫理的な葛藤を象徴していると言えるでしょう。
物質文明と精神性の対立
当時のロシアは、資本主義の波が押し寄せ、都市部を中心に近代化が急速に進展していました。しかし、その一方で、農村部では貧困や差別が蔓延し、多くの人々が苦しい生活を強いられていました。
トルストイは、物質的な豊かさを追求する近代文明に対して、人間本来の精神的な価値観を見失っていると批判的でした。『復活』においても、華やかな貴族社会の空虚さと、農民たちの素朴ながらも力強い生き方が対比的に描かれています。
ネフリュードフは、貴族としての privilegiierte な立場を捨て、自らの生き方や価値観を問い直すようになります。彼は、土地所有を放棄し、農民たちと共に生きる道を探求していきます。この姿は、物質文明に毒された現代社会において、私たちが真に大切なものは何かを問いかけていると言えるのではないでしょうか。
愛と赦しによる魂の救済
ネフリュードフは、カチューシャへの愛と赦しを通して、自身の罪を償おうとします。しかし、カチューシャは、過去の傷と社会からの偏見によって、ネフリュードフの申し出を受け入れることができずに苦悩します。
『復活』における「復活」は、単なる社会的な復権ではなく、魂の再生を意味しています。ネフリュードフは、カチューシャとの出会いと別れを通して、自己犠牲の愛の大切さを学び、真の幸福へと向かう道を歩み始めます。
一方、カチューシャもまた、シベリアで出会った政治犯シムカへの献身的な愛を通して、心の平安と救済を見出していきます。トルストイは、どんなに過酷な現実にあっても、愛と赦しによってのみ、人間の魂は真の救済に到達できることを示唆していると言えるでしょう。