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トルストイのセヴァストーポリ物語を読む前に

トルストイのセヴァストーポリ物語を読む前に

ロシア帝国とクリミア戦争について知る

 「セヴァストーポリ物語」は、19世紀半ばに起きたクリミア戦争を舞台としています。トルストイ自身もこの戦争に従軍し、セヴァストーポリの攻防戦を経験しました。作品をより深く理解するためには、当時のロシア帝国が置かれていた状況や、クリミア戦争が勃発した背景、戦争の経過についてある程度の知識を持っていることが望ましいです。

 当時のロシア帝国は、ロマノフ朝の下、ヨーロッパの大国として君臨していましたが、国内には農奴制などの社会問題を抱えていました。また、南下政策を進める中で、オスマン帝国やイギリス、フランスなどと対立を深めていました。クリミア戦争は、こうしたロシアと西欧列強との間の緊張が、宗教問題などをきっかけに爆発したものでした。

 戦争は、クリミア半島を中心に、黒海やバルト海など広範囲にわたって戦われました。ロシア軍は、緒戦こそ優勢に戦いを進めますが、イギリス、フランスなどの近代的な軍事力の前に次第に劣勢に追い込まれていきます。セヴァストーポリは、ロシア黒海艦隊の拠点であり、その運命を左右する重要な要塞都市でした。しかし、1年以上にわたる包囲戦の末、陥落してしまいます。

トルストイの人生と創作活動について理解する

 「セヴァストーポリ物語」は、トルストイの初期の代表作であり、後の「戦争と平和」「アンナ・カレーニナ」といった長編小説にも通じるテーマが描かれています。作品をより深く理解するためには、トルストイ自身の生きた時代背景や、彼がどのような人生を歩み、何を考え、作品にどのような思いを込めたのかを知ることが重要です。

 トルストイは、ロシアの貴族階級の出身でしたが、幼い頃に両親を亡くし、苦難を経験しました。青年期には、放蕩生活を送った一方で、軍隊に入隊し、クリミア戦争に従軍するなど波乱の青春時代を過ごしました。こうした経験を通して、人間の生の意義や社会の矛盾について深く考えるようになり、作家としての道を歩み始めます。

 「セヴァストーポリ物語」は、トルストイが実際に従軍したクリミア戦争での経験に基づいて書かれた作品です。戦争の悲惨な現実や、兵士たちの心情、人間の生死観などが、リアリズムの手法を用いて生々しく描かれています。トルストイはこの作品を通して、戦争の愚かさ、人間の尊厳、愛や信仰の大切さなどを訴えかけました。

当時のロシア文学の潮流を押さえる

 19世紀のロシア文学は、プーシキン、ゴーゴリ、レールモントフといった偉大な作家たちによって、独自の黄金時代を築き上げていました。「セヴァストーポリ物語」は、こうしたロシア文学の伝統を受け継ぎながら、トルストイ独自の視点と手法によって書かれた作品です。作品をより深く理解するためには、当時のロシア文学の潮流や、トルストイの作品が、その後のロシア文学にどのような影響を与えたのかを知っておくことが役立ちます。

 19世紀半ばのロシア文学は、西欧の影響を受けながら、リアリズムや自然主義といった新しい文学思潮が台頭していました。当時の作家たちは、社会問題や庶民の生活に目を向け、人間の心理や社会の矛盾を鋭く描写しました。トルストイもまた、こうしたリアリズムの影響を受け、戦争の現実を生々しく描き出しています。

 しかし、トルストイは単なるリアリズム描写に留まらず、人間の精神世界や道徳、宗教といったテーマにも深く切り込んでいます。こうしたトルストイの思想性や人間探求は、後のロシア文学にも大きな影響を与え、ドストエフスキーやチェーホフといった作家たちに受け継がれていきます。

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