トルストイのクロイツェル・ソナタの原点
トルストイ自身の結婚生活
「クロイツェル・ソナタ」の執筆に大きな影響を与えたのは、トルストイ自身の結婚生活における葛藤と苦悩です。トルストイは1862年に18歳のソフィヤ・アンドレーエヴナと結婚し、13人の子供をもうけました。しかし、結婚当初は情熱的だった二人の関係は、次第に冷え込んでいきます。
妻ソフィヤとの不和
トルストイは貴族としての生活を捨て、禁欲的な生活を送ることを望むようになります。一方、ソフィヤは華やかな社交界での生活や、物質的な豊かさへの執着を捨てきれませんでした。このような価値観の相違から、夫婦の溝は深まっていき、激しい口論が絶えなかったと言われています。
作品への反映
「クロイツェル・ソナタ」は、まさにこのようなトルストイ自身の夫婦間の葛藤や、結婚生活に対する幻滅を色濃く反映した作品となっています。主人公ポズドヌイシェフが、妻への嫉妬から殺人に至るという衝撃的なストーリーは、当時の社会に大きな波紋を広げました。
ベートーヴェンの音楽
作品中で重要なモチーフとして登場するベートーヴェンの「クロイツェル・ソナタ」は、トルストイ自身が実際に演奏し、その激情的で官能的な旋律に強い影響を受けたと言われています。作品にこの音楽を用いることで、夫婦間の愛憎劇をより劇的に描き出すことに成功しています。
当時の社会状況
19世紀後半のロシアでは、女性の社会進出が進み、従来の結婚観や家族のあり方が問われるようになりました。トルストイは「クロイツェル・ソナタ」を通して、当時の社会が抱えていた結婚制度の問題や、男女間の愛と性の矛盾を鋭く告発しています。