## デフォーのモール・フランダースの批評
発表当時の批評
1722年に匿名で出版された「モール・フランダース」は、発表当時から賛否両論を巻き起こしました。
道徳的に問題のある主人公を描いているという点が、当時の批評家から最も問題視されました。モールは、生き残るために盗みや売春など、あらゆる手段を尽くします。当時の社会通念からすると、モールの行動は到底許されるものではなく、多くの読者は彼女の生き方に嫌悪感を抱いたことでしょう。特に、近親相姦や重婚といったタブーとされていたテーマが描かれている点は、当時の道徳観に大きな衝撃を与えました。
一方で、モールの置かれた過酷な状況や、彼女のしたたかな生き方に共感を覚える読者も少なくありませんでした。当時のイギリス社会は貧富の差が激しく、貧しい女性が生き延びることは容易ではありませんでした。モールの物語は、当時の社会問題を浮き彫りにし、女性が置かれている厳しい現実をリアルに描いた作品として評価されました。
現代における批評
現代においても、「モール・フランダース」は様々な視点から批評されています。
フェミニズム批評の観点からは、本作は抑圧的な社会の中で生き抜こうとする女性の力強さを描いた作品として評価されています。モールは、男性優位の社会において、自らの意志と行動力で運命を切り開こうとします。彼女のしたたかな生き方は、当時の女性の置かれた状況を考えると、むしろ賞賛されるべきものとして解釈することもできます。
一方で、モールの行動は必ずしも倫理的に正しいとは言えず、現代の道徳観からすると批判の対象となる可能性もあります。また、植民地主義や奴隷制といった問題を扱っている点についても、現代の視点から批評がなされています。
リアリズム小説としての評価
「モール・フランダース」は、リアリズム小説の先駆的な作品としても評価されています。
デフォーは、当時の社会状況や人々の生活を詳細に描写することで、リアリティあふれる物語を創り出しました。モールの告白という形式で語られる物語は、読者にまるで自分がモールの体験を追っているかのような臨場感を与えます。また、当時のロンドンやアメリカの植民地など、舞台となる場所を鮮やかに描写することで、物語に更なるリアリティを与えています。
文学史における位置づけ
「モール・フランダース」は、18世紀イギリス文学を代表する作品の一つであり、現代でも広く読まれています。道徳的に問題のある主人公を描いたことで賛否両論を巻き起こした本作は、小説というジャンルが社会に与える影響力、そして文学の持つ可能性を示唆する作品として、重要な意味を持っています。