## ディルタイの精神科学序説の対称性
###
第1部と第2部の対称性
ディルタイの『精神科学序説』は、大きく分けて2つの部分から構成されています。第1部は、それまでの形而上学的な基礎づけの上に成り立っていた精神科学を批判的に検討し、新たな基礎付けの必要性を論じています。一方、第2部は、ディルタイ自身の提案する新たな精神科学の基礎、すなわち「生命」概念を軸とした解釈学的循環の構造を提示しています。
この2つの部分は、単に内容的に連続しているだけでなく、構造的にも対称性をなしている点が重要です。すなわち、第1部がそれまでの精神科学の基礎に対する批判であるのに対し、第2部はディルタイ自身の提案する新たな基礎を提示している点において、両者は表裏一体の関係にあるといえます。
###
経験と解釈の対称性
ディルタイは、精神科学の基礎として「生命」概念を重視し、「経験」と「解釈」の循環構造を提示しました。これは、我々が世界を理解する過程は、自身の内的経験と、それを通じて外部世界を解釈することの循環的な運動であるとするものです。
この経験と解釈の循環構造は、『精神科学序説』全体を貫く重要なモチーフとなっています。例えば、第1部においては、過去の形而上学が、人間の生の有限性という根源的な経験を見失い、抽象的な概念構成に偏重してきたことを批判しています。一方、第2部においては、歴史や文化といった客観的な精神世界を理解するためには、我々自身の内的経験を出発点とした解釈学的循環が必要であることを論じています。
###
歴史的考察と体系的考察の対称性
『精神科学序説』において、ディルタイは歴史的な考察と体系的な考察を組み合わせることで、自身の主張を展開しています。具体的には、第1部では、デカルトやカント、ヘーゲルといった過去の哲学者たちの思想を歴史的に追跡することで、彼らの精神科学的方法における限界を明らかにしています。
一方、第2部では、歴史的な考察に基づきつつも、ディルタイ自身の提案する解釈学的循環という体系的な枠組みを提示しています。このように、『精神科学序説』は、具体的な歴史的考察を出発点としながらも、最終的には普遍的な精神科学の基礎付けを目指すという、歴史と体系の往還構造を持っている点が特徴です。