## ディルタイの精神科学序説の価値
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**1. 歴史的文脈における意義**
19世紀後半、自然科学の隆盛は、人間精神の理解においても客観的で法則的な説明を求める風潮を生み出しました。こうした風潮に対し、ディルタイは『精神科学序説』(1883年) において、人間精神を扱う学問分野 (精神科学) の独自性を主張しました。
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**2. 自然科学との差異の明確化**
ディルタイは、自然科学が外部からの観察に基づき法則性を明らかにしようとするのに対し、精神科学は、人間が生み出した文化現象を「内的経験」を通して理解しようとするとしました。「内的経験」とは、我々が感情移入を通じて過去の文化や他者の精神に触れ、共感し理解することを意味します。
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**3. 「理解」の方法としての「解釈学」の提唱**
ディルタイは、精神科学における解釈の方法として「解釈学」を提唱しました。彼によれば、我々は、言語、芸術作品、制度といった客観化された表現物を通じて、過去の文化や他者の精神を理解します。解釈学は、これらの表現物に込められた意味を解釈し、その背後にある精神を明らかにする作業と言えます。
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**4. 後世への影響**
ディルタイの思想は、20世紀の人文科学、特に歴史学、文学、哲学に多大な影響を与えました。特に、解釈学は、ガダマーらによって発展させられ、現代思想における重要な方法論として位置づけられています。
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**5. 批判的検討の必要性**
ディルタイの思想は、その後の精神科学に大きな影響を与えた一方で、客観性の欠如や心理主義といった批判も指摘されています。ディルタイの主張は、あくまで精神科学の自律性を主張するための出発点と捉え、その限界を踏まえつつ批判的に検討していく必要があります。