## ツルゲーネフの父と子の力
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世代間対立
「父と子」は、1860年代のロシアを舞台に、世代間の対立を鮮やかに描いています。主人公バザロフは、一切の権威を否定するニヒリスト(虚無主義者)として登場し、伝統的な価値観を固持する父方の世代と激しく対立します。
バザロフは、貴族社会の象徴であるパヴェル・ペトローヴィチや、ロマンチシズムに傾倒するアルカージの父ニコライ・ペトローヴィチと、思想や生き方において鋭く対立します。特に、パヴェル・ペトローヴィチとの決闘は、世代間の価値観の相違を象徴する象徴的な場面として描かれています。
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社会変革の予兆
バザロフが体現するニヒリズムは、当時のロシア社会に広がりつつあった社会変革の予兆として描かれています。農奴解放を目前に控えたロシアでは、旧来の社会秩序や価値観が揺らぎ、新しい時代への期待と不安が交錯していました。
バザロフは、貴族社会の道徳や伝統、恋愛や芸術といった感傷的なものをすべて否定し、科学や理性に基づいた実利的な考え方を重視します。彼の態度は、旧体制の崩壊と新しい時代の到来を予感させるものとして、当時の読者に衝撃を与えました。
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普遍的な人間の葛藤
「父と子」は、単なる世代間対立を描いた作品ではなく、普遍的な人間の葛藤を描き出しています。バザロフは、自分の信念を貫きながらも、アンナ・セルゲーエヴナへの叶わぬ恋や、自身の死に対する恐怖など、人間的な弱さを見せる場面も描かれています。
彼の苦悩は、新しい時代を担う若者が直面する、理想と現実、理性と感情、個人と社会との葛藤を象徴しています。バザロフの生き様は、時代や社会が変わっても、人間が本質的に抱える葛藤を浮き彫りにしています。