## ツルゲーネフの父と子の世界
世代間の対立
本作は、1860年代のロシアを舞台に、旧世代と新世代の対立を描いています。伝統的な価値観を重んじる父世代と、それを否定し、新しい思想を掲げる子世代の衝突が、様々な場面で展開されます。
父世代を代表する貴族のパベル・キルサーノフは、名誉や格式を重視し、古い秩序を守ろうとします。一方、子世代を代表する医学生のエヴゲーニイ・バザロフは、ニヒリストを自称し、貴族的な価値観や伝統、権威を徹底的に否定します。彼は、科学と理性に基づいた社会の進歩を信じ、既存の社会体制を根本から覆そうとします。
ニヒリズム
バザロフが信奉するニヒリズムは、当時のロシアで台頭していた思想です。ニヒリストたちは、既存のあらゆる権威、道徳、価値観を否定し、虚無主義的な立場をとりました。彼らは、社会の進歩を阻害するものとして、伝統や宗教、芸術などを激しく批判しました。
バザロフは、ニヒリズムの思想を体現したかのような言動を繰り返します。彼は、愛や芸術を「くだらないもの」と切り捨て、自然科学こそが唯一の真理であると主張します。彼の過激な思想は、周囲の人々、特に父世代の人々から反感を買います。
愛と死
バザロフは、愛を否定し、自然科学の研究にのみ価値を見出そうとします。しかし、アンナ・オージナという女性に出会い、恋に落ちそうになります。彼の冷徹な理性は、愛という感情によって揺り動かされ、ニヒリズムの矛盾に直面することになります。
また、バザロフは、物語の終盤で、チフスに感染し、若くして命を落とします。彼の死は、ニヒリズムの限界と、人間の存在の悲劇性を象徴する出来事として描かれます。
ロシア社会の変革期
本作は、農奴解放令が発布された直後のロシアを舞台としています。社会は大きく変化し、古い秩序は崩壊しつつありました。貴族階級は没落の危機に瀕し、新しい思想が台頭するなど、ロシアはまさに変革期を迎えていました。
ツルゲーネフは、本作を通して、激動の時代におけるロシア社会の現実と、世代間の対立、そして人間の根源的な問題を描こうとしたと言えるでしょう。