# チョーサーのトロイルスとクリセイデを深く理解するための背景知識
チョーサーの時代背景
ジェフリー・チョーサーは14世紀後半のイングランド、エドワード3世とリチャード2世の治世に活躍した作家であり、詩人です。中世後期のイングランドは、百年戦争やペストの大流行など激動の時代でした。社会構造は封建制度に基づいており、騎士道精神や宮廷恋愛といった文化が花開いていました。チョーサー自身は宮廷に仕え、外交官や官僚としても活躍した経験を持ち、当時の社会や文化を深く理解していました。彼の作品には、こうした時代背景や社会風俗が色濃く反映されています。
トロイア戦争とその物語
トロイルスとクリセイデは、トロイア戦争を題材とした物語です。トロイア戦争は、古代ギリシャの叙事詩『イーリアス』や『オデュッセイア』で描かれた、ギリシャ軍とトロイア軍の10年におよぶ戦争です。トロイルスとクリセイデの物語は、この戦争中の出来事を題材としていますが、『イーリアス』や『オデュッセイア』には登場しません。チョーサーは、12世紀フランスの詩人ブノワ・ド・サント=モールや、イタリアの詩人ボッカッチョの作品などを参考に、独自の物語を創作しました。
宮廷恋愛の伝統
チョーサーの時代には、宮廷恋愛という恋愛観が貴族社会で流行していました。宮廷恋愛は、騎士が貴婦人に対して崇拝と献身的な愛情を捧げるという、プラトニックな恋愛を理想とします。恋愛は結婚とは切り離されたものであり、騎士は貴婦人のために武勲を立てたり、詩歌を捧げたりすることで、自らを高めていきます。トロイルスとクリセイデの物語にも、こうした宮廷恋愛の要素が取り入れられています。トロイルスはクリセイデに一途な愛を捧げますが、彼らの恋愛は社会的な制約や運命によって翻弄されていきます。
中世における運命観と自由意志
中世の人々は、人間の運命は神や星によって定められているという考えを持っていました。しかし同時に、人間には自由意志があり、自らの選択によって運命を変えることもできると考えられていました。トロイルスとクリセイデの物語では、登場人物たちの行動が運命によって左右される一方で、彼ら自身の選択が物語の展開に大きな影響を与えています。チョーサーは、運命と自由意志というテーマを、登場人物たちの葛藤を通して深く探求しています。
チョーサーの文体と韻律
チョーサーは、英語で詩作を行った初期の詩人の一人であり、英語による文学の発展に大きく貢献しました。トロイルスとクリセイデは、七行連句と呼ばれる韻律形式で書かれています。この韻律形式は、各行がそれぞれ10音節からなり、ababbccという韻律で構成されています。チョーサーは、巧みな言葉遣いと比喩表現を用いて、登場人物たちの心情や物語の情景を生き生きと描写しています。
作品における哲学的・宗教的思想
トロイルスとクリセイデには、当時の哲学的・宗教的思想が反映されています。例えば、トロイルスは恋愛に苦悩する中で、ボエティウスの『哲学の慰め』などの哲学書を読み、運命や自由意志、幸福について考えを巡らせます。また、作品にはキリスト教的な価値観や倫理観も描かれています。チョーサーは、登場人物たちの行動や葛藤を通して、人間の愛や欲望、罪や救済といった普遍的なテーマを深く掘り下げています。
Amazonでトロイルスとクリセイデ の本を見る
読書意欲が高いうちに読むと理解度が高まります。