## チョーサーのカンタベリー物語の表象
登場人物描写
チョーサーは、物語の巡礼者たちを、外見、職業、社会的地位、性格など、鮮やかに描き出しています。それぞれの巡礼者は、当時の社会における典型的な階層の代表者として描かれており、その描写は細部にまでこだわっています。たとえば、修道院長は高価な衣服を身につけ、狩猟を好み、世俗的な欲望に囚われている様子が描かれています。一方、質素な身なりで慈悲深い修道士も登場し、当時の教会内の腐敗と敬虔さの対比が浮き彫りになっています。
社会の風刺
チョーサーは、登場人物たちの物語や会話を通して、当時のイギリス社会を風刺的に描いています。聖職者の腐敗、貴族の堕落、庶民の狡猾さなど、社会のあらゆる階層における問題点が鋭く指摘されています。たとえば、免罪符売りの話では、教会が人々の信仰心を悪用して私腹を肥やしている様子が痛烈に批判されています。また、バースの女房の話では、結婚における男女の力関係や女性の社会進出といったテーマがユーモラスに語られています。
言語と文体
チョーサーは、『カンタベリー物語』において、当時の口語である中英語を用いています。これは、それまでの文学作品が主にラテン語やフランス語で書かれていたことを考えると、画期的な試みでした。チョーサーの文体は、登場人物の身分や性格、物語の内容によって変化に富んでおり、時には滑稽に、時にはシリアスに、物語の世界を生き生きと描き出しています。
物語の構造
『カンタベリー物語』は、様々な身分の巡礼者がカンタベリー寺院への巡礼の旅をしながら、それぞれが物語を語るという枠物語の形式をとっています。この構造により、多様な物語が一つの作品に収められ、当時の社会の縮図が浮かび上がると同時に、人間の本質に迫る普遍的なテーマも描かれています。また、物語の中には、他の物語に対する批評や登場人物同士の対立などが挿入されており、単なる物語集を超えた複雑な構造を持つ作品となっています。