## ダーウィンの種の起源の思想的背景
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自然神学
ダーウィンが生きていた時代、生物の世界は神による創造物であり、その完璧さと複雑さは神の偉大さを証明するものだと広く信じられていました。自然神学と呼ばれるこの思想は、生物の形態や機能は神の意図に基づいて設計されたものであり、種は不変であると主張していました。ウィリアム・ペイリーはその代表的な論者であり、著書『自然神学』の中で、時計の精巧な構造を例に挙げ、生物もまた知性を持つ創造主によって設計されたに違いないと論じました。ダーウィン自身も若い頃はペイリーの影響を受け、自然の世界に見られる秩序と調和に深い感銘を受けていました。
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斉一説
ダーウィンは、地質学者チャールズ・ライエルの著書『地質学原理』から大きな影響を受けました。ライエルは、地球の現在の姿は、過去に現在と同じ自然法則が長い時間をかけて作用した結果であるとする斉一説を提唱しました。これは、聖書に基づいて地球の歴史を短い期間で説明しようとする当時の一般的な見方に反するものでした。ライエルの思想は、ダーウィンに生物進化という、非常に長い時間をかけて起こる現象を考える上で重要な枠組みを提供しました。ダーウィンはビーグル号航海中にライエルの著書を読み込み、地震や地層などの観察を通して斉一説の妥当性を認識していきました。
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マルサスの「人口論」
トマス・ロバート・マルサスの著書『人口論』も、ダーウィンに大きな影響を与えました。マルサスは、人口は幾何級数的に増加する一方で、食料生産は算術級数的にしか増加しないため、人口増加は必ず抑制要因によって制限されると主張しました。ダーウィンはこの考え方を生物界に適用し、生物は常に生存競争にさらされており、限られた資源を獲得するために struggle for existence(生存闘争)を行っていると解釈しました。
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動植物の育種
ダーウィンは、当時の農家や育種家が、家畜や農作物を人為的に交配させて、より優れた品種を作り出していることに注目しました。彼は、人間が意図的に特定の形質を持つ個体を選抜し交配させることによって、生物の形質が変化していくことを示す証拠だと考えました。この人工的な選択の過程は、自然選択のメカニズムを理解するための重要なアナロジーとなりました。ダーウィンは、自然界では人間ではなく、環境が選択圧として作用すると考えました。