ダンテの神曲の関連著作
ウェルギリウス「アエネーイス」
「神曲」地獄篇の案内役を務めるウェルギリウスは、ローマ文学の黄金時代を代表する詩人プブリウス・ウェルギリウス・マロであり、叙事詩「アエネーイス」はその代表作です。「アエネーイス」は、トロイア滅亡後、ローマ建国に至るまでを描いた作品で、ローマ建国という国家的な偉業を、神々の意志と英雄アエネーアースの苦難を通じて描き出しています。
「神曲」と「アエネーイス」を比較すると、両作品とも、叙事詩という形式を取り、壮大なスケールで描かれている点、当時の宗教観や世界観を色濃く反映している点、愛や運命、死といった普遍的なテーマが扱われている点で共通しています。特に「地獄篇」は、「アエネーイス」第6巻でアエネーアースが冥府を訪れる場面の影響を強く受けており、ダンテはウェルギリウスへのオマージュとして、彼を案内役に選んだと言われています。
トマス・アクィナス「神学大全」
トマス・アクィナスは、13世紀の神学者、哲学者であり、スコラ哲学の代表的な人物です。主著「神学大全」は、アリストテレス哲学をキリスト教神学に取り入れ、体系化した著作で、中世キリスト教思想の集大成とされています。
「神曲」は、中世キリスト教的世界観に基づいて構成されており、「神学大全」にも影響を受けています。例えば、「神曲」における天国の構造や、煉獄における罪の分類は、「神学大全」における神学的議論と深く関連しています。ダンテは、アクィナスの思想を作品に反映させることで、当時の読者にとってより理解しやすい形で、自身の宗教観や倫理観を表現しました。
ジョヴァンニ・ボッカッチョ「デカメロン」
ジョヴァンニ・ボッカッチョは、ダンテと同時代のイタリアの作家であり、代表作「デカメロン」は、ペスト禍から逃れた男女10人が、10日間にわたって物語を語り合うという構成の短編集です。
「デカメロン」は、それまでの文学の伝統にとらわれず、人間の本能や欲望を率直に描いた作品として、ルネサンスの先駆的作品とされています。ダンテは、「神曲」において、当時の社会や人間に対する鋭い批判を展開していますが、ボッカッチョもまた、「デカメロン」の中で、聖職者や貴族の偽善を風刺し、人間の弱さや愚かさを描き出しています。このように、両作品は、人間存在に対する深い洞察という点で共通しています。