## ダイシーの法と世論が扱う社会問題
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世論と法の関係
ダイシーは、法と世論の関係を考察する上で、世論が法に与える影響力を中心に論じています。彼は、法の制定や改廃、司法判断など、法のあらゆる側面において、世論が大きな影響力を持つことを指摘しています。
具体的には、議会における立法過程において、議員は世論の動向を常に意識し、世論の支持を得られるような法律を制定しようとします。 また、裁判官も、社会通念や倫理観を反映した判決を下そうとする傾向があり、その背景には世論の影響が少なからず存在します。
### 2.
世論形成における諸要素
ダイシーは、世論がどのように形成されるのかについても分析しています。彼は、新聞や雑誌などのメディア、政治家の演説、教育機関、宗教団体など、様々な要素が世論形成に影響を与えることを指摘しています。 特に、19世紀後半から20世紀初頭にかけて発展したマスメディアは、世論形成において大きな役割を果たすようになり、ダイシーもその影響力の強さを認識していました。
さらに、ダイシーは、個人の経験や価値観、社会階層や所属する集団なども、世論形成に影響を与える要素として挙げています。 人は、自分の置かれた環境や経験に基づいて意見を形成するため、社会的な背景が異なる人々の間では、異なる世論が形成される可能性があります。
### 3.
世論の多様性と不確実性
ダイシーは、世論は常に変化するものであり、単一的かつ明確な意見として捉えることはできないと主張します。 社会は多様な価値観や利害を持つ人々によって構成されているため、ある問題に対して様々な意見が存在するのは当然のことです。
また、世論は外部からの影響や社会状況の変化によって容易に変動するものであり、その不安定さもダイシーは指摘しています。 特定の出来事やメディアの報道によって、人々の意見は大きく左右される可能性があり、一時的な感情に左右された世論が、必ずしも社会全体の利益に合致するとは限りません。
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世論と社会進歩
ダイシーは、世論が社会進歩の原動力となり得ると考えました。彼は、奴隷制度廃止や労働者階級の権利拡大など、歴史的な社会変革の背景には、世論の大きな変化があったことを指摘しています。
ただし、ダイシーは、世論が常に正しい方向に進むとは限らないことも認識していました。彼は、偏見や差別、扇動などに基づいた世論が形成される可能性も指摘し、そのような世論は社会進歩を阻害する要因になり得ると警告しています。