ゾラの居酒屋の対極
自然主義の暗黒面に対する、ロマン主義の光:ゲーテの「ヴィルヘルム・マイスターの修養時代」
エミール・ゾラの「居酒屋」は、人間の弱さや社会の暗部を容赦なく描く、自然主義文学の金字塔として知られています。一方、その対極に位置する作品として挙げられるのが、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの「ヴィルヘルム・マイスターの修養時代」です。
「居酒屋」がアルコール中毒による人間の堕落や社会の底辺を描いているのに対し、「ヴィルヘルム・マイスターの修養時代」は、主人公ヴィルヘルムが自己形成を通じて理想の人間へと成長していく過程を描いています。ヴィルヘルムは、演劇や芸術に情熱を燃やす青年であり、様々な経験を通して人間的に成長していきます。彼は、貴族社会や庶民社会、芸術家集団など、様々な階層の人々と関わりながら、自己と向き合い、理想の姿へと近づいていきます。
「居酒屋」では遺伝や環境によって人間の運命が決定づけられているという、当時の自然科学の考え方が色濃く反映されています。一方、「ヴィルヘルム・マイスターの修養時代」では、人間は自らの意志や努力によって成長し、運命を切り開くことができるとする、ゲーテ自身の思想が表現されています。
このように、「居酒屋」と「ヴィルヘルム・マイスターの修養時代」は、テーマ、作風、思想など、多くの点で対照的な作品と言えます。