## ソルジェニーツィンの癌病棟の対極
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「生の célébration 」としての対極:トーマス・マン「魔の山」
「ソルジェニーツィンの癌病棟」がソ連の強制収容所を舞台に、人間の絶望や死の影を容赦なく描いた作品である一方、トーマス・マンの「魔の山」はスイスのサナトリウムを舞台に、生と死、時間と意識の深淵へと読者を誘います。
「癌病棟」の患者たちが体制の犠牲者として、病魔と闘いながらも社会からの疎外感に苦しむのに対し、「魔の山」の登場人物たちは、結核という当時不治の病に罹患しながらも、サナトリウムという一種の隔離された空間で、独自の共同体の中で人生の意味や愛について深く考察します。
主人公ハンス・カストルプは、当初は療養のため短期間の滞在予定が、サナトリウムという非日常的な空間に魅了され、7年もの歳月をそこで過ごすことになります。彼は様々な思想や文化を持った人々と出会い、彼らとの交流を通して、自己の内面を見つめ、精神的な成長を遂げていきます。
「魔の山」は、病と死の影に覆われながらも、人間の精神的な探求と成長、そして生の輝きを描いた作品として、「癌病棟」の持つ重苦しいリアリズムとは対照的な、深遠で多層的な世界観を提示しています。それは、絶望と死のリアリティを描く「癌病棟」に対し、「魔の山」は生と向き合い、その複雑さと美しさを探求する、まさに「生の célébration」と呼ぶべき作品と言えるでしょう。