## スタインベックの怒りの葡萄を深く理解するための背景知識
1930年代のアメリカ:世界恐慌とダストボウル
1929年に始まった世界恐慌は、アメリカ経済に壊滅的な打撃を与えました。株式市場の暴落を皮切りに、企業の倒産、銀行の破綻が相次ぎ、失業率は急上昇しました。都市部では失業者が街にあふれ、農村部では農産物価格の暴落により、多くの農民が土地を失うことになりました。
この時期、アメリカ中西部は深刻な干ばつに見舞われました。オクラホマ州やカンザス州などのグレートプレーンズ地域では、乾燥した表土が強風によって吹き飛ばされ、巨大な砂嵐が発生するようになりました。これは「ダストボウル」と呼ばれ、農地を荒廃させ、農業を不可能にするほど深刻なものでした。
世界恐慌とダストボウルという二重の苦難は、多くの農民を故郷から追い出すことになりました。彼らはわずかな家財道具を積み込んだ車で、仕事とより良い生活を求めて西海岸のカリフォルニアへと向かいました。
オクラホマ州からの移民:オークies(オーキーズ)
「怒りの葡萄」の主人公であるジョード一家は、オクラホマ州出身の農民です。彼らはダストボウルと土地の立ち退きによって故郷を追われ、カリフォルニアを目指します。このようなオクラホマ州からの移民は、カリフォルニアの人々から蔑称的に「オークies(オーキーズ)」と呼ばれていました。
オーキーズは、カリフォルニアでは歓迎されませんでした。彼らは低賃金で働く労働力として搾取され、劣悪な環境での生活を強いられました。地元住民は彼らを「よそ者」として差別し、仕事や住居を奪い合う競争相手と見なしていました。
カリフォルニアの農業:大規模農園と季節労働者
カリフォルニアは温暖な気候と肥沃な土地に恵まれ、農業が盛んな地域でした。しかし、農業は少数の資本家によって所有される大規模農園によって支配されていました。彼らは大量の季節労働者を雇い、農作業を行わせていました。
世界恐慌の影響で、カリフォルニアにも失業者が流入し、季節労働者の数は増加しました。大規模農園は、この労働力過剰の状態を利用して賃金を極端に抑え、労働者を劣悪な環境で働かせました。
労働運動と社会主義思想の影響
1930年代のアメリカでは、労働者の権利を守るための労働運動が活発化していました。農場労働者の間にも、労働組合を組織して待遇改善を求める動きが広がっていました。
「怒りの葡萄」には、労働運動の影響が色濃く反映されています。主人公のトム・ジョードは、農場労働者の組織化やストライキに参加することで、社会的な不正義に立ち向かおうとします。また、作中には社会主義思想の影響を受けた人物が登場し、資本主義社会の矛盾や貧困問題について議論する場面も描かれています。
スタインベックの思想と作品背景
ジョン・スタインベックは、社会的な弱者に対する深い共感を持つ作家でした。彼は実際にカリフォルニアの農場労働者たちの生活を調査し、彼らの苦しみや怒りを「怒りの葡萄」に描き出しました。
スタインベックは、大規模農園による搾取や社会の不平等を批判し、労働者の団結と社会変革の必要性を訴えました。「怒りの葡萄」は、単なる農民の物語ではなく、当時のアメリカの社会問題を鋭く告発した作品として高く評価されています。
これらの背景知識を踏まえることで、「怒りの葡萄」の登場人物たちの行動や心理、そして作品のテーマをより深く理解することができます。
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読書意欲が高いうちに読むと理解度が高まります。