## ジンメルの生の哲学の位置づけ
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近代の危機と生の哲学
ジンメルは、19世紀末から20世紀初頭にかけてのドイツで活躍した社会学者・哲学者です。この時期は、合理主義や産業化といった近代化の進展が、人間の生のあり方を大きく変容させていった時代でした。伝統的な価値観や共同体の崩壊、個人の孤立化、ニヒリズムの蔓延といった問題が深刻化し、「近代の危機」と呼ばれる状況が生じていました。
このような時代背景の中で、ジンメルは、ディルタイやベルクソンらとともに、「生の哲学」と呼ばれる思想潮流の一翼を担うことになります。「生の哲学」は、近代の危機が提起する問題に対し、合理主義的な思考や概念では捉えきれない「生の全体性」や「生命の根源的な力」を重視することで、新たな生の意味を見出そうとする思想運動でした。
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ジンメルにおける「生」の概念
ジンメルは、「生」を、絶えず生成変化し続ける、流動的で動的なものとして捉えました。彼にとって、生とは、自己と世界との間で絶え間なく行われる相互作用の過程であり、固定的な実体として把握できるものではありませんでした。ジンメルは、このような生の捉え方に基づき、近代社会における様々な現象を分析していきます。
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文化の悲劇
ジンメルは、近代社会において、文化が「客観文化」と「主観文化」に分裂していく状況を鋭く指摘しました。彼によれば、「客観文化」とは、科学技術や制度、情報など、人間の外部に存在する客観化された文化を指します。一方、「主観文化」とは、個人の内面的な教養や感性、精神的な深みを指します。
近代化が進むにつれて、客観文化は巨大化・複雑化し、個人はそれに圧倒され、主体性を喪失していくとジンメルは考えました。その結果、客観文化と主観文化との間に断絶が生じ、個人の内面は空虚化していくことになります。ジンメルはこのような状況を「文化の悲劇」と呼びました。
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大都市と個人の生活
ジンメルは、近代社会を特徴づける大都市生活において、個人が経験する様々な心理的影響についても分析しました。彼は、大都市における過剰な刺激や情報、匿名的な人間関係が、個人の感性を鈍麻させ、冷淡で無関心な態度を生み出すと指摘しました。
一方で、ジンメルは、大都市が個人の自由や個性、自律性を促進する側面も持ち合わせていることを認めました。大都市は、伝統や慣習の束縛から解放され、多様な価値観やライフスタイルが共存する場でもあります。ジンメルは、大都市における個人の生活を、機会と危険の両面を孕んだ、 ambivalent なものとして捉えていました。
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