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ジョイスのダブリン市民から学ぶ時代性

## ジョイスのダブリン市民から学ぶ時代性

ダブリンの停滞と麻痺

ジェイムズ・ジョイスの短編集『ダブリン市民』は、20世紀初頭のダブリンを舞台に、そこに暮らす人々の生活を描き出すことで、当時のアイルランド社会の時代性を浮き彫りにしています。 作品全体を貫くテーマの一つが、ダブリンという街、そしてそこに住む人々を覆う停滞感と麻痺状態です。

イギリスの植民地支配という歴史的背景のもと、ダブリン市民は政治、経済、文化などあらゆる面において抑圧され、閉塞的な状況に置かれていました。 登場人物たちは、変化を恐れ、現状維持に固執することで、自らを更に深い停滞へと追い込んでいく姿が描かれています。

ナショナリズムとアイデンティティの模索

当時のアイルランドは、イギリスからの独立を求めるナショナリズムが高揚していた時代でもありました。 『ダブリン市民』では、こうした時代背景を反映し、登場人物たちが自らのアイデンティティ、そしてアイルランドという国家のアイデンティティについて葛藤する姿が描かれています。

しかし、彼らの多くは、具体的な行動を起こすことができず、空虚な議論や酒に逃げることで、現実から目を背けています。 こうした登場人物たちの姿は、当時のアイルランド社会が抱えていた、ナショナリズムの高揚と現実の停滞の間にある矛盾を象徴していると言えるでしょう。

教会と社会の束縛

カトリック教会の強い影響力も、『ダブリン市民』の時代性を理解する上で重要な要素です。 当時のアイルランド社会は、教会の規律や道徳観によって厳しく統制されており、人々の行動や思考は大きな制約を受けていました。

ジョイスは、教会の権威が人々の自由な精神を蝕み、偽善的な道徳観が社会全体を覆っている現状を批判的に描いています。 登場人物たちは、教会の教えと自身の欲望との間で葛藤し、その結果として罪悪感や絶望感にさいなまれる姿が印象的です。

階級社会と貧困

『ダブリン市民』では、当時のダブリン社会に根深く存在していた階級格差や貧困問題も描かれています。 登場人物たちは、それぞれの社会階層に属し、異なる生活環境、教育水準、価値観を持っています。

ジョイスは、貧困層の生活苦や労働者階級の厳しい現実を赤裸々に描き出す一方で、上流階級の人々の虚栄心や偽善性を鋭く批判しています。 こうした描写は、当時の社会における経済的・社会的な不平等が、人々の心に深い傷跡を残していたことを物語っています。

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