Skip to content Skip to footer

ジョイスのダブリナーズを深く理解するための背景知識

ジョイスのダブリナーズを深く理解するための背景知識

ジェームズ・ジョイスの生涯とダブリナーズの関係

ジェームズ・ジョイス(1882-1941)はアイルランドのダブリンで生まれ育ちました。裕福な家庭に生まれましたが、父親の事業失敗により徐々に貧困へと転落していきます。カトリックの学校で教育を受け、後にユニバーシティ・カレッジ・ダブリンに進学し、近代言語を学びました。ダブリンでの生活はジョイスの作品に大きな影響を与えており、特に初期の作品である短編集「ダブリナーズ」は、当時のダブリンの社会、文化、人々の生活をリアルに描写しています。

ジョイスはダブリンを「麻痺した」都市と捉えていました。彼は、当時のダブリン社会が、イギリスの支配下にあること、カトリック教会の強い影響力、保守的な社会風潮などによって、人々の精神が抑圧され、自由な思考や行動が阻害されていると感じていました。ダブリナーズに収録されている短編は、それぞれ異なる階層、年齢、職業の人物を主人公に、彼らの日常生活や心の葛藤を描きながら、ダブリン社会全体の「麻痺」状態を浮き彫りにしています。

ジョイスは1904年にダブリンを離れ、ヨーロッパ各地を転々としながら創作活動を続けました。ダブリナーズは、彼がダブリンを離れた後に執筆され、1914年に出版されました。ダブリンに対する複雑な感情、愛憎入り混じる思いは、ダブリナーズだけでなく、後の代表作である「ユリシーズ」や「フィネガンズ・ウェイク」にも色濃く反映されています。

アイルランドの政治と社会状況

19世紀後半から20世紀初頭にかけてのアイルランドは、イギリスの支配下にあり、政治的、社会的に不安定な状態でした。アイルランド人はイギリスからの独立を求めて、様々な運動を展開していました。ダブリナーズが執筆された時期は、ちょうどアイルランド民族主義が高まり、独立運動が活発化していた時期と重なります。

イギリスの支配に対する抵抗は、アイルランド人のアイデンティティにも影響を与えていました。イギリス文化の影響を受けながらも、アイルランド独自の文化や伝統を守ろうとする動きも活発でした。ゲール語復興運動やアイルランド文学復興運動などがその代表例です。

ダブリナーズには、当時のアイルランドの政治状況や社会問題が、登場人物の会話や行動、物語の背景などにさりげなく織り込まれています。例えば、「アイビー・デイの思い出」では、アイルランドの民族主義者であるパーネルの死後、人々が彼に対する評価をめぐって対立する様子が描かれています。「カウンターパーツ」では、イギリスの支配に対する抵抗運動に参加する男性が、上司からの圧力に屈してしまう姿が描かれています。

カトリック教会の影響

アイルランドは伝統的にカトリック教徒が多数を占める国であり、カトリック教会は社会に大きな影響力を持っていました。当時のアイルランド社会は、教会の教えが人々の生活に深く浸透しており、道徳や倫理観、教育、結婚など、あらゆる面に教会の影響が及んでいました。

ジョイス自身は、カトリックの学校で教育を受けましたが、青年期には教会の権威主義や教義に疑問を抱き、信仰から離れていきました。ダブリナーズでは、教会の影響下にある人々の心理や、教会の権威に対する批判的な視点が描かれています。

例えば、「姉妹たち」では、少年が司祭の死に直面し、罪悪感や恐怖を感じながらも、教会の権威に疑問を抱き始める様子が描かれています。「恩寵」では、酔って転落し怪我をした男性が、友人に勧められて教会の説教を聞き、改心するように促される様子が描かれています。しかし、その改心は表面的なものであり、男性は真の意味で救済されることはありません。

ダブリナーズの文学的特徴

ダブリナーズは、15編の短編から構成されており、それぞれ独立した物語となっていますが、登場人物や場所、時代などが重なり合い、全体としてダブリン社会の全体像を描き出す構成となっています。

ジョイスは、ダブリナーズにおいてリアリズムの手法を用い、当時のダブリンの街並みや人々の生活を詳細に描写しています。登場人物の会話は、ダブリン方言で書かれており、当時のアイルランド人の話し言葉がリアルに再現されています。

また、ジョイスは「エピファニー」と呼ばれる手法を用いています。エピファニーとは、登場人物が日常の些細な出来事を通して、突然、自分自身や周りの世界に対する新たな認識を得る瞬間のことです。ダブリナーズでは、登場人物たちがエピファニーを経験することで、それまで気づかなかった自分自身の心の奥底や、ダブリン社会の現実を垣間見ることになります。

ダブリナーズは、モダニズム文学の先駆けとされており、その後の文学に大きな影響を与えました。ジョイスが用いたリアリズム、エピファニー、意識の流れといった手法は、多くの作家たちに受け継がれ、現代文学にも大きな影響を与えています。

Amazonでダブリナーズ の本を見る
読書意欲が高いうちに読むと理解度が高まります。

Leave a comment

0.0/5