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ジョイスの「若い芸術家の肖像」の美

## ジョイスの「若い芸術家の肖像」の美

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言語の美しさ

ジョイスは、物語の中で、主人公スティーヴンの成長段階に合わせて、文体や語彙を変化させています。幼少期のスティーブンを描写する際には、単純な文構造と平易な言葉遣いが用いられ、彼の無垢で未熟な世界観を表現しています。成長するにつれて、文は複雑化し、語彙も豊富になっていき、彼の内面世界の広がりと深まりが反映されていきます。特に、スティーブンが芸術家としての自我に目覚めていく過程では、比喩や象徴を駆使した詩的な表現が多用され、彼の精神の高揚と葛藤が鮮やかに描き出されています。

例えば、スティーブンがダブリンの街を歩く場面では、彼の内的感覚と街の風景が重ね合わされ、街路や建物、人々の姿が、彼の心情や思考を反映した象徴的なイメージとして描かれます。また、スティーブンが芸術論を展開する場面では、抽象的な概念を感覚的なイメージに変換することで、彼の美意識の鋭さと深遠さが際立つように表現されています。

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心理描写の緻密さ

ジョイスは、スティーブンの内面を、彼の思考や感情、感覚、記憶などを、まるで心の奥底を覗き込むかのように克明に描写しています。特に、スティーブンが宗教、恋愛、芸術など、さまざまな問題に直面し、葛藤する場面では、彼の心の揺れ動きが、独白や意識の流れの手法を駆使して、リアルに表現されています。

例えば、スティーブンが神父になるか芸術家になるかで苦悩する場面では、彼の信仰心と芸術への情熱、現実と理想、罪悪感と自由への憧れなど、相反する感情が激しくぶつかり合い、彼の内面は引き裂かれんばかりの状態になります。ジョイスは、こうしたスティーブンの複雑な心理状態を、言葉によって精緻に描き出すことで、読者に彼の苦悩を追体験させ、深い共感を呼び起こします。

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芸術論の普遍性

「若い芸術家の肖像」は、スティーブンという一人の青年が芸術家としての道を歩み始めるまでの物語であるとともに、芸術の本質とは何か、芸術家はいかに生きるべきかを問う、普遍的なテーマを内包した作品でもあります。スティーブンは、芸術とは「人生という不完全な素材から、美と真実を創造する営み」であり、芸術家は「自己の魂と肉体を作品に捧げる殉教者」であると定義します。

スティーブンの芸術論は、当時のアイルランド社会における保守的な芸術観に対する痛烈な批判であると同時に、時代や社会を超えて、芸術家を目指す者すべてに共通する普遍的なテーマを提起しています。それは、自己と世界との葛藤、理想と現実の狭間における苦悩、そして、真の自由と美を求める魂の叫びです。

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