## ジェイムズの心理学原理の対極
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行動主義宣言:ワトソンによる客観性の追求
ウィリアム・ジェイムズの『心理学原理』は、意識の流動性や主観的な経験を重視した、意識心理学の代表的な著作です。 一方、ジョン・ワトソンの行動主義は、心理学を「行動の科学」と再定義し、意識や内観を完全に排除しようとする、全く異なる立場をとりました。
1913年に発表されたワトソンの論文「行動主義者が見るところの心理学」は、しばしば「行動主義宣言」と呼ばれ、心理学における大きな転換点となりました。 この論文でワトソンは、心理学が自然科学の一分野として認められるためには、客観的な観察と測定可能なデータに基づかなければならないと主張しました。
ジェイムズが重視した内省や主観的な報告は、ワトソンにとって科学的なデータとして不適切でした。 ワトソンは、心理学の研究対象は、直接観察可能な行動のみに限定されるべきだと考えました。 彼の有名な「刺激-反応」の枠組みは、環境からの刺激に対する生物の反応を分析することで、行動の法則性を明らかにしようとするものでした。
行動主義は、その明確な方法論と客観性を重視する姿勢から、20世紀前半の心理学において支配的な勢力となりました。 特にアメリカでは、ワトソンやスキナーなどの影響のもと、学習や条件付けの研究を中心に大きく発展しました。
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フロイトの精神分析:無意識の深淵を探る
ジェイムズの心理学が意識を重視したのに対し、ジークムント・フロイトの精神分析は、人間の行動や精神の根底に、意識にのぼらない「無意識」の領域が存在すると主張しました。 フロイトは、意識は氷山の一角に過ぎず、その下には広大な無意識の世界が広がっていると表現しました。
フロイトは、無意識の領域には、抑圧された欲求や衝動、幼い頃に経験したトラウマなどが隠されており、それらが神経症などの精神的な問題を引き起こすと考えました。 そして、自由連想や夢分析といった精神分析の技法を用いることで、無意識の世界を探求し、患者が自身の心の奥底にある葛藤を理解することを目指しました。
フロイトの精神分析は、人間の行動を生物学的、本能的な側面から説明しようとする点で、ジェイムズの心理学とは対照的でした。 また、精神分析は、実験室での厳密な実験よりも、臨床的な観察や事例研究を重視する点でも、ジェイムズの心理学とは異なっていました。
精神分析は、心理学だけでなく、文学、芸術、哲学など、幅広い分野に大きな影響を与えましたが、その科学的な根拠については、常に議論の的となってきました。