ショーペンハウアーの意志と表象としての世界の力
ショーペンハウアーの主著「意志と表象としての世界」
は、19世紀前半に刊行され、西洋哲学、特にドイツ観念論の流れを汲む重要な著作です。本書は、人間の経験の基底に
ある根源的な力
が働いているという思想を展開し、それは「意志」と名付けられます。ショーペンハウアーは、カントの超越論的な認識論を批判的に継承しながら、世界は我々の表象として現れると同時に、その根底には意志という非理性的で盲目的な力が存在すると主張しました。
「表象」とは、
我々が感覚器官を通じて認識する現象世界全体を指します。色、形、音、味といった感覚的性質や、時間、空間、因果関係といったカテゴリーは、全て人間の認識能力によって構成されたものであり、物自体がどのようなものであるかを知ることはできません。ショーペンハウアーは、カントと同様に、人間の認識能力の限界を強調し、物自体へのアクセスを否定しました。
しかし、ショーペンハウアーは、
カントが「物自体」と呼んだものを、我々自身の内面に存在する「意志」と同一視します。ショーペンハウアーによれば、我々は自身の身体を通して、意志を最も直接的に経験することができます。
例えば、
空腹や渇きを感じるとき、我々はただ空腹や渇きという表象を認識するだけではなく、それを満たそうとする衝動、つまり意志の働きを直接的に経験します。
この意志は、
個人の自我を超えた、世界全体を貫く根源的な力であり、絶えず欠乏と充足を繰り返しながら、盲目的に活動し続けます。
そして、
この意志の活動こそが、個々の事物の生成と消滅、さらには生命の苦しみと闘争を生み出す根源であるとショーペンハウアーは主張しました。