ショーペンハウアーの意志と表象としての世界に影響を与えた本
ウパニシャッド
ショーペンハウアーの主著『意志と表象としての世界』は、西洋哲学と東洋思想、特にウパニシャッド哲学との稀有な融合として知られています。ショーペンハウアー自身、ウパニシャッドを「人間の心の慰め」と呼び、「私の人生で最も意義深い読書体験」とまで述べています。
ウパニシャッドは、古代インドのヴェーダ文献群の一部を成す哲学書であり、ブラフマンと呼ばれる宇宙の根源的な原理と、個人の魂であるアートマンの同一性を説いています。この思想は、ショーペンハウアーの哲学体系における核心的概念である「意志」の理解に大きな影響を与えました。
ショーペンハウアーは、ウパニシャッドにおけるブラフマンを、盲目的で非理性的、そして飽くなき衝動として世界を駆り立てる力、すなわち「意志」と同一視しました。彼は、この意志こそが、現象世界の背後に存在する真の実在であり、個々の現象は、その一時的な表象に過ぎないと考えました。
また、ウパニシャッドにおける解脱の概念、すなわち輪廻転生からの解放も、ショーペンハウアーの哲学に大きな影響を与えました。彼は、芸術や禁欲を通じて意志の束縛から一時的に解放されることが可能であるとし、それを「意志からの自由」と呼びました。
ショーペンハウアーは、ウパニシャッドを自身の哲学の先駆として位置づけ、その思想を西洋哲学の文脈で再解釈しようと試みました。彼は、ウパニシャッドの翻訳を奨励し、自らの著作の中でも頻繁に引用するなど、その普及にも尽力しました。