シュティルナーの唯一者とその所有の関連著作
ヘーゲルの法哲学講義録
マルクス主義の唯物史観の源流と目されるヘーゲル哲学は、シュティルナーの思想にも大きな影響を与えました。特に「法哲学講義録」は、国家や法の理念を論じることで、個人の自由と社会秩序の関係について考察した書です。シュティルナーはヘーゲルの思想を批判的に継承しつつ、独自の唯我論を展開しました。ヘーゲルは、国家を理性の実現形態として捉え、個人が国家に参与することによって真の自由を獲得するとしました。一方、シュティルナーは、国家もまた個人の自由を束縛する「幽霊」であると批判し、個人が自らの所有として国家をも超越することを主張しました。
フォイエルバッハのキリスト教の本質
青年ヘーゲル派の代表的な思想家であるフォイエルバッハは、ヘーゲルの観념論を批判し、人間を起点とした唯物論を唱えました。彼の主著「キリスト教の本質」は、宗教が人間の疎外された本質の投影であることを論じた書です。シュティルナーはフォイエルバッハの唯物論に共鳴し、人間を「神」として崇拝することの虚偽を批判しました。しかし、フォイエルバッハが人間の本質を普遍的なものとして捉えていたのに対し、シュティルナーは個人の独自性を強調し、人間という抽象的な概念を超越することを主張しました。
マックス・シュティルナーの「唯一者とその所有」
シュティルナーは、1844年に「唯一者とその所有」を発表しました。この本は、国家、社会、道徳など、あらゆる権威や観念を「幽霊」とみなし、個人の絶対的な自由を主張したもので、そのラディカルな思想は、後のアナーキズムやニヒリズムに大きな影響を与えました。シュティルナーは、「唯一者」としての個人が自らの「所有」を追求することこそが、真の自由であると主張しました。この「所有」には、物質的なものだけでなく、思想や感情、さらには他者までもが含まれます。
プルードンの「財産とは何か」
シュティルナーと同時代に活躍したフランスの思想家プルードンは、アナーキズムの父と称される人物です。彼の主著「財産とは何か」は、私有財産を批判し、相互主義に基づく社会の構築を主張した書です。プルードンは、労働によってのみ価値が生まれると主張し、資本家による利潤の搾取を批判しました。シュティルナーもまた、私有財産を否定しましたが、その根拠はプルードンとは異なりました。プルードンが社会正義の観点から私有財産を批判したのに対し、シュティルナーは個人の自由を束縛するあらゆる形態の所有を否定しました。