# シェイクスピアのテンペストを深く理解するための背景知識

ジェームズ一世とステュアート朝の宮廷

テンペストは、１６１１年頃に書かれたと考えられており、エリザベス女王の死後、ステュアート朝のジェームズ一世が即位した時代の作品です。ジェームズ一世は、スコットランド王ジェームズ六世でもあり、イングランドとスコットランドの統一を果たした人物です。この時代は、政治的な変化だけでなく、新世界への探検や植民地化、ルネサンスの影響による人文主義の興隆など、様々な変化が起きていた時代でした。ジェームズ一世自身、魔術やオカルトに興味を持っていたことが知られており、彼の宮廷では仮面劇などの豪華な演劇が盛んに行われていました。これらの時代背景は、テンペストの政治的な寓意や魔法、幻想的な要素に影響を与えていると考えられます。

新世界の発見と植民地化

１５世紀末から１６世紀にかけて、ヨーロッパは大航海時代を迎え、コロンブスによるアメリカ大陸の発見など、新たな世界が発見されました。これに伴い、ヨーロッパ諸国は新世界への植民地化を進めていきます。テンペストの舞台となる無人島は、まさに新世界を象徴する場所として解釈することができます。また、劇中には、原住民であるキャリバンが登場しますが、彼はヨーロッパ人によって征服され、奴隷として扱われています。キャリバンとヨーロッパ人の関係は、当時の植民地主義と被植民地主義の関係を反映していると考えられます。

ルネサンス人文主義と魔術

ルネサンス期には、古代ギリシャ・ローマの文化が見直され、人文主義が興隆しました。人文主義は、人間中心主義的な思想であり、人間の理性や能力を重視するものでした。一方で、この時代には、魔術や錬金術などのオカルト的な学問も盛んに行われていました。テンペストの主人公であるプロスペローは、魔法を操る人物として描かれていますが、彼の魔法は、ルネサンス期の人文主義と魔術の両方の側面を反映していると考えられます。プロスペローは、魔法によって自然を操り、自分の意志を貫徹しようとしますが、同時に、理性的な思考や深い知識も持ち合わせています。

古典劇とロマンス劇の影響

シェイクスピアのテンペストは、古典劇とロマンス劇の要素を併せ持っています。古典劇の特徴としては、三一致の法則（時間の統一、場所の統一、筋の統一）や高貴な登場人物、運命や宿命などが挙げられます。一方、ロマンス劇は、冒険や恋愛、魔法や超自然的な要素などを特徴としています。テンペストは、古典劇的な構成を持ちながらも、ロマンス劇的な要素も多く含まれており、シェイクスピアの晩年の円熟した劇作術を示す作品と言えるでしょう。

当時の演劇状況と上演方法

シェイクスピアの時代、演劇は庶民から貴族まで幅広い層に楽しまれていました。劇場は、グローブ座のような野外劇場と、ブラックフライアーズ劇場のような屋内劇場がありました。テンペストは、屋内劇場であるブラックフライアーズ劇場で初演されたと考えられています。屋内劇場では、舞台装置や照明などを効果的に使うことができたため、テンペストの魔法や幻想的な場面をより効果的に演出することができたでしょう。また、当時の演劇では、女性は舞台に立つことができず、女性の役は男性俳優が演じていました。

モンテーニュのエセーの影響

フランスの思想家モンテーニュの『エセー』は、シェイクスピアの作品に大きな影響を与えたと考えられています。特に、テンペストのキャリバンの描写には、『エセー』の中の「カニバルについて」という章の影響が見られます。モンテーニュは、この章で、ヨーロッパ人が「野蛮人」と呼ぶ人々も、独自の文化や価値観を持っていることを指摘し、ヨーロッパ中心主義的な考え方を批判しています。シェイクスピアは、モンテーニュの思想を参考に、キャリバンを単なる野蛮人ではなく、複雑な感情や思考を持つ人間として描いていると考えられます。

その他

上記の背景知識に加えて、テンペストを深く理解するためには、シェイクスピアの他の作品や、同時代の文学作品、美術作品などを参照することも重要です。また、様々な解釈や批評を読むことも、理解を深める上で役立ちます。

Amazonでテンペストの本を見る
読書意欲が高いうちに読むと理解度が高まります。