サルトルの弁証法的理性批判の関連著作
ヘーゲル「精神現象学」
サルトルの主著『存在と無』が現象学的方法を駆使した著作であるのと同様、『弁証法的理性批判』もまた、ヘーゲルとマルクスの影響を色濃く受けた弁証法的な方法を基調としています。とりわけ、ヘーゲル哲学の精髄である弁証法とその展開過程を体系的に理解する上で、『精神現象学』は避けて通れません。
『精神現象学』は、人間の意識が、感性的 certeza から自己意識、理性、そして絶対知へと至る過程を、弁証法的な運動によって描き出した作品です。サルトルは、ヘーゲルの弁証法を批判的に継承しつつも、その方法そのもの、そして歴史や社会における人間の意識の展開に関する洞察から大きな影響を受けています。
マルクス「資本論」
サルトルの思想は、マルクスの唯物史観や疎外論を基盤としています。『資本論』は、資本主義社会における生産様式や階級闘争を分析したマルクスの主著であり、サルトルの社会思想を理解する上で欠かせない著作です。
サルトルは、『弁証法的理性批判』において、マルクスの唯物論を批判的に継承しつつ、人間の主体性と歴史の弁証法を統合しようと試みています。特に、疎外論は『弁証法的理性批判』における重要なテーマであり、サルトルは資本主義社会における人間の疎外を克服する道を探求しています。
レヴィ=ストロース「野生の思考」
サルトルは、構造主義の影響を受けながらも、それを批判的に検討していました。レヴィ=ストロースの『野生の思考』は、構造主義人類学の金字塔とされ、人間の思考構造を文化や社会との関連から分析しています。
サルトルは、『弁証法的理性批判』において、構造主義の持つ、人間の主体性を軽視する傾向を批判しています。しかし、レヴィ=ストロースの文化や社会構造に関する分析は、サルトルの社会思想に一定の影響を与えていると考えられています。
メルロ=ポンティ「知覚の現象学」
メルロ=ポンティは、サルトルと共に20世紀フランスを代表する哲学者であり、現象学的方法を用いた独自の思想を展開しました。『知覚の現象学』は、メルロ=ポンティの主著であり、人間の身体と知覚を中核に据えた現象学を展開しています。
サルトルは、初期にはメルロ=ポンティと親交があり、互いに影響を与え合っていました。しかし、後に両者は思想的に決別します。『弁証法的理性批判』において、サルトルは、メルロ=ポンティの身体論を批判しつつも、人間の主体性と世界の関係を考察する上で重要な示唆を与えていると評価しています。