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サルトルの弁証法的理性批判の普遍性

## サルトルの弁証法的理性批判の普遍性

### サルトルの弁証法的理性批判における「普遍性」の多義性

サルトルにとって「普遍性」は一義的な概念ではなく、文脈に応じて異なる意味合いを持っています。大きく分けて、以下の3つのレベルで「普遍性」が論じられていると考えることができます。

1. **人間存在の構造としての普遍性**: これは、実存主義の根本テーゼである「実存は本質に先立つ」という思想と密接に関係しています。人間には、あらかじめ規定された本質が存在せず、自らの選択と行為によって自己を形成していく自由と責任を負わされている存在です。サルトルはこのような人間存在の構造を「対自存在」(pour-soi)と呼び、あらゆる人間に共通する普遍的な特徴だと考えました。
2. **歴史的状況における普遍性の希求**: 人間は自由であると同時に、特定の歴史的・社会的状況に投げ込まれた存在でもあります。サルトルは、このような状況を「実践的惰性」や「疎外」といった概念を用いて分析し、人間が自由な主体として行為することが困難な状況を描写しました。しかし、サルトルは、このような状況下においても、人間は「全体化」への志向、すなわち歴史の全体性を理解し、自らの行為によって歴史を変革していこうとする普遍的な欲求を持つと主張しました。
3. **弁証法的理性による普遍性の構成**: サルトルは、人間の思考と歴史の運動を分析するツールとして、ヘーゲルとマルクスの弁証法を批判的に継承しました。サルトルは、弁証法を「全体化する運動」として捉え直し、個別具体的な状況と普遍的な構造との間の相互作用を明らかにしようとしました。弁証法的理性は、歴史の総体性を理解し、人間の自由と責任を明らかにするための方法論として提示されています。

### サルトルの普遍性概念の独自性と問題点

サルトルの普遍性概念は、伝統的な形而上学的な普遍性概念とは一線を画しています。サルトルは、プラトンのイデア論のような、具体的な事物とは別に普遍的な実在を想定する立場を批判し、あくまでも具体的な人間存在の構造と歴史的な実践の中に普遍性を位置づけようとしました。

しかし、サルトルの普遍性概念は、以下のような批判にさらされてきました。

1. **抽象性と空虚さの批判**: サルトルは、人間存在の普遍的な構造として「対自存在」を提示しますが、具体的な歴史的・社会的状況への言及が不足しているため、抽象的で空虚な概念になっているという批判があります。
2. **個人と歴史の断絶**: サルトルは、個人の自由と責任を重視するあまり、個人と歴史との関係が希薄になっているという指摘があります。個人の自由な選択が、どのようにして歴史的な変化と結びつくのかという点が明確ではありません。
3. **規範性の根拠の不明確さ**: サルトルは、全体化への志向や他者の承認の希求といった人間の普遍的な欲求を根拠に、倫理的な規範を導き出そうとします。しかし、これらの欲求がなぜ倫理的な規範となりうるのか、その根拠は十分に示されているとは言えません。

### まとめ

サルトルの普遍性概念は、伝統的な形而上学的な普遍性概念を克服しようとする野心的な試みであり、現代思想に大きな影響を与えました。しかし、その一方で、抽象性や個人と歴史の断絶、規範性の根拠の不明確さといった問題点も指摘されています。 サルトルの普遍性概念は、現代社会における人間の自由と責任、個人と社会の関係を考える上で、重要な視点を提供してくれると同時に、さらなる検討と深化が必要な課題も提起していると言えるでしょう。

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