## サルトルの弁証法的理性批判に匹敵する本
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現象学と構造主義の試み:メルロ=ポンティ「知覚の現象学」
サルトルの「弁証法的理性批判」がマルクス主義の唯物史観を現象学的に解釈し直そうとしたように、メルロ=ポンティの「知覚の現象学」は、人間の知覚経験を起点に、伝統的な哲学や心理学が抱えていた心身二元論や客観主義を批判的に検討し、新たな人間理解の地平を切り開こうとした画期的な著作です。
「知覚の現象学」は、知覚を単なる受動的な感覚情報の受容ではなく、世界と能動的に関わり、意味を構成していくダイナミックなプロセスとして捉えます。メルロ=ポンティは、身体を「意識と世界の媒介者」として重視し、「身体図式」や「習慣」といった概念を用いながら、我々が世界内存在として、いかに身体を通して世界を経験し、意味を賦与していくのかを詳細に分析しました。
「弁証法的理性批判」が歴史や社会における人間の praxis を重視したのに対し、「知覚の現象学」は、より根源的なレベルである、身体を介した世界との関わり合いという視点から、人間の存在を問い直したと言えるでしょう。
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構造主義の先駆:レヴィ=ストロース「親族の基本構造」
「弁証法的理性批判」が人間の思考や行動における構造を分析したように、「親族の基本構造」は、一見多様に見える世界の親族体系の背後に潜む普遍的な構造を明らかにしようと試みた人類学上の金字塔です。
レヴィ=ストロースは、ソシュールの言語学における構造主義的方法を人類学に導入し、親族関係を、文化や社会を超えた普遍的な「記号の体系」として分析しました。彼は、近親相姦のタブーや交換婚といった慣習を、単なる社会的な規制ではなく、文化を成立させるための基本的な構造原理として捉え、その背後にある無意識的な思考の規則を明らかにしようとしました。
「弁証法的理性批判」が歴史における人間の行為の弁証法的展開を論じたのに対し、「親族の基本構造」は、文化や社会を構成する根底的な構造を明らかにすることにより、人間精神の普遍的なメカニズムに迫ろうとした点で、共通する問題意識を見出すことができるでしょう。