サルトルの存在と無の関連著作

サルトルの主著『存在と無』は、20世紀を代表する哲学思想のひとつである実存主義を体系的に論じた書として知られています。実存主義は、キルケゴール、ニーチェ、ハイデガーといった思想家の影響を受け継ぎながら、20世紀前半にフランスを中心に展開されました。

実存主義の中心概念は、「実存は本質に先立つ」という言葉に集約されます。これは、人間は、あらかじめ決められた本質や目的を持って生まれてくるのではなく、まず何者でもない存在としてこの世界に投げ出され、その自由な選択と行為によって、自らの存在を形成していくという思想です。

サルトルは、『存在と無』において、現象学の methodology を用いて人間の意識の構造を分析しています。現象学は、フッサールによって創始された哲学の methodology であり、事物の本質を探求するのではなく、意識に現れる現象そのものをありのままに記述することを目指します。

サルトルは、フッサールの弟子でもあったメルロ＝ポンティの影響を受けながら、意識と世界の関係を考察し、「意識は常に何かに向かって志向している」という「意識の志向性」の概念を展開しました。そして、意識は対象と切り離されたものではなく、世界と常に関係性を持ちながら存在していることを明らかにしました。

サルトルの実存主義は、ハイデガーの存在論の影響を色濃く受けています。ハイデガーは、西洋哲学の歴史における存在の意味を問い直し、人間存在を「現存在」（Dasein）として規定しました。現存在とは、世界の中に「投げ込まれている」存在であり、常に死の可能性と直面している有限な存在です。

サルトルは、ハイデガーの現存在の概念を継承しながら、人間存在の自由と責任を強調しました。サルトルによれば、人間は常に選択の自由を持っており、その選択によって自らの存在を規定していきます。そして、その選択には責任が伴うのであり、責任から逃れることは許されません。