サリンジャーのライ麦畑でつかまえてと言語
ホールデン・コールフィールドの語り口
ホールデン・コールフィールドの一人称視点で語られるため、読者は彼の目に映る世界を直接体験することになります。彼の若者特有の言葉遣い、皮肉、独特のリズムは、1950年代のアメリカのティーンエイジャーの姿をリアルに、そして時に痛々しいほど鮮明に描き出しています。
頻繁に登場する「くだらない」「インチキ」といった俗語は、ホールデンの周囲の大人社会に対する軽蔑や幻滅を如実に表しています。彼は大人たちの言動を偽善的で空虚なものと捉えており、それらを拒絶するために独自の語彙を用いて距離を置くのです。
反復と強調
ホールデンの語りは、特定の単語やフレーズの反復によって特徴付けられます。例えば、「大嫌いだ」「すごく」「まるで」といった言葉は、彼の感情の高ぶりや未熟さを強調する効果があります。
また、「わかるだろ?」「そうじゃないか?」といった呼びかけの言葉は、読者に対して共感や同意を求める気持ちの表れとして解釈できます。これは、孤独と疎外感を抱えるホールデンが、誰かと繋がりたいと切望している心の内を反映していると言えるでしょう。
口語表現とスラング
当時のティーンエイジャーが実際に使っていたであろう口語表現やスラングがふんだんに盛り込まれているのも特徴です。これにより、物語はよりリアルで生き生きとしたものとなり、読者はホールデンの世界に自然と引き込まれていきます。
しかし、こうした言葉遣いは、発表当時、一部の読者から批判の的となりました。彼らは、ホールデンの言葉遣いを下品で不適切だとみなし、文学作品にふさわしくないと感じたとされています。